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映画『CRISIS クライシス』
人間は何かに依存せずには生きられない。
その依存が健全かどうかは、時代が判定する。
美味しい食事や、便利な都市生活。ショッピングモールでの買い物。テーマパークや旅行。私達の周りにあるこうしたことも、それが失くなってしまうと生きていけないほどの依存性がある。しかし誰もこれらを依存とは言わない。
普通の生活につきまとうストレスを解消するためには、一定程度の依存が必要だからだ。
解消しきれないストレスの影響は心身の不調となって現れる。頭痛もその一つだろう。頭痛持ちだという人は良く聞くが、頭痛が起こるメカニズムは医学的に解明されていないという。だから、頭痛の苦痛を和らげるために、鎮痛剤を日常的に服用している人も多い。
しかし、この鎮痛剤に依存性があったとしたらどうだろうか。
治療のつもりで服用した薬によって依存症となり、その結果苦しんだ挙げ句に死に至る。そうだったとしたら、どうだろうか。
この映画『CRISIS クライシス』(2021年、アメリカ)は、アメリカで社会問題化している鎮痛剤「オピオイド」にまつわる物語が主軸になっている。オピオイドは強い鎮痛作用を持つ劇薬であると同時にある種の麻薬である。依存性や過剰摂取による影響がありながらアメリカ国内では普及が進み、2000年代に入って過剰摂取による死亡者数が激増してトランプ大統領が公衆衛生の緊急事態と宣言したほどであった。
物語の主人公はひとりではない。
捜査官、ドラッグディーラー、製薬会社CEO、大学教授、そして母親と子供。それぞれの立場でこの問題に関わっている。そして皆それぞれが複数の顔を持っている。
考えてみれば私たちはその場その場で別の顔を持って使い分けて生きている。家庭、友人、仕事場、そして独りでいる時。別々の人格を演じていると言っても良い。
そうしたことだってストレスの源なのかもしれない。
全てを打ち明けられる間柄だと思っていた人が、知らぬ間に抱えていた秘密は、いつしか心の、そして生命の危機に繋がることもある。
単純なストーリー進行に複雑に絡み合う伏線が織り成す様は見事という他ない。解り易い展開、それでいて深みのある脚本は極めて現代的で、現代的過ぎたが故に実験的に終わってしまった感もある。
画作りの効果もあって、終始冷静に見れてしまうことや、誰に感情移入すれば良いのか分からなくなってしまうプロットは、見る人の感情を揺さぶることはない。こうしたことが評価を下げたのだとしたら残念だ。
登場人物それぞれの役割や持っている顔を深掘りしてみれば、違った物語が見えてくるはずだ。
何かに依存し過ぎることも、そうせざるを得なくなることも、そして依存を招くストレスが知らぬ間に人々の心と身体を蝕んでいるのも。これらが現代のあらゆる問題の底に根を広げている危機の現れだとしたら、それを和らげるための処方として鎮痛剤以上の何かを私たちは必要としているのかもしれない。
おわり
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