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『二人の記憶』第33回 ひみつの工作

 猫のラグが我が家に来てから数週間が経ったある日曜日の朝、ホームセンターに行きたいと言いだした昇太郎の運転する車の助手席に亜希子はいた。
「しょーたろーがホームセンターに行きたいなんて珍しいけど、何買うの?」
「別に珍しくはないだろ。ホームセンターは好きだよ」
「見るのは好きだけど買うものは無いって言ってたじゃん」
「ホームセンター好きなアコに比べたらっていうだけで、買いたい物くらいあるよ」
「だったら今日は何買いたいの?」
「ヒ・ミ・ツだよ」
「な〜に、もったいぶって」
という取り留めのない会話をしているうちに車はホームセンターの駐車場に滑り込んだ。まだ混み始める前のようだ、駐車スペースには余裕がある。

 ホームセンターに入ると昇太郎は並ぶ棚を見渡して目星をつけたのか、奥の方に進んでいった。亜希子は速歩はやあしで先に進んだ昇太郎を追い掛ける。
 パイプ類が立てて並べられている棚の前に着くと目当ての寸歩が頭にあったのだろう、昇太郎はおもむろに拳くらいの太さのグレーの塩ビパイプを手にした。
「アコ、ちょっとこれ持ってて」と言ってその配管材料を亜希子に渡すと昇太郎は今度は木材の並んでいるレーンに向かっていった。
(塩ビの配管なんかで何作る気だろ)

 昇太郎は、木材用の大きなカートを何処かから持ってきて、ベニヤ板と角材を一つずつ載せると、「ごめんアコ、ちょっとここで見張っててね。あっち行ってから戻って来るから」と言い残すと別の棚の方へ行ってしまった。

 その後、店内で掻き集めてきたネジやらボンドやらロープやら、そして少しモフモフの布生地やらと一緒にさっきのパイプと木材の会計を済ますと、「アコ、帰るよ」と言って車の方に戻って行く。亜希子は、えらく手際の良いこと、と思いながらカートを押していく。
 先に車に着いた昇太郎はすでに後ろのハッチを開けて待っていた。亜希子が手渡す品を車に積みながら昇太郎は鼻歌交じりだった。

 家に帰るや否や暫くノコギリと格闘しながら板や角材や塩ビパイプを切っていたと思ったら、「アコ、裁縫の裁ちばさみ貸して」ときた。
「布以外切らないでよ」と言いながら鋏を渡すと昇太郎はさっき買ったモフモフ布を亜希子の目の前にブラブラさせて、
「これ切るだけだから大丈夫だよ」と言う。
 見ていると、変な形に切った板に合わせて、少し大きめになるよう鋏を入れている。切り終わると板にボンドを塗って切った布を貼り付けていた。

 パイプの中に、同じ長さに切った角材を通し、パイプを立てた状態でその上下に布を貼った板をネジで取り付けていく。上の板の上にはまた別のパイプを立てて上に板を取り付ける。下から、板、パイプ、板、パイプという順番に組んでいった。
 すると今度は買ってきたロープを取り出し、塩ビパイプに巻き付けていく。昇太郎は「結構ロープ使うな〜、足りるかな〜」と言いながらひたすらロープを巻き付けている。

 亜希子が昼食のパスタを茹でていたら昇太郎から声が掛かった。
「アコー、出来たよ!」
 そもそも何を作っているのか知らされていないアコは、正直あまり興味が持てず、「待ってて、パスタ茹で上がったら行くから」と鍋の中で踊るパスタをぼんやり眺めながら時計に目をやり、あと3分だなと思った。

 腰に両手を当てて満足そうに完成品を眺めている昇太郎の向こうに、それはそびえていた。そびえるは言い過ぎだが、天井に届く高さになっていた。
 それの全貌が見えるとアコにもそれが何か分かった。
「しょーたろー、凄い!」
「だろー! 何か分かる?」
「うん、分かるよー」アコはそう言ってから周囲を探すように首を回し、そして声を張り上げながら言った。「ラグちゃ〜ん、どこ? ラグちゃん、しょーたろーがカッコいいキャットタワー作ってくれたよー!」

 昇太郎は、欠伸をしながらそろりと現れたラグを抱き抱えると、出来たての手作りキャットタワーの中段にラグを乗せた。

つづく

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