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【読後想】『ホワイトラビット』★★★★☆

夏休みの宿題で読書感想文が苦手だったけれど、感想でも書評でもなく、想ったことを勝手に書き留めるだけなら出来そうだということで記録する読後想。

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『不思議の国のアリス』では、白ウサギを追いかければ不思議の世界に迷い込みへんてこな話が繰り広げられる(らしい)。
 ファンタジー世界と現実世界は、どちらも人間の作り出した脳内幻想だという意味において表裏一体だ。最近ではヴァーチャルリアリティなんて言って仮想化された現実がしばしば話題になるが、目の前にある(と思っている)現実だって、貴方の脳が捉えた現実世界の一部に過ぎないからだ。

 だからファンタジーは架空の世界の話でありながら何処かで現実と繋がっている。アリスが落ちた穴の様な所で。

 今回私が巡り合ったのはこちら。何処かで現実と繋がっているという意味でファンタジー小説だ。

伊坂幸太郎(著)、『ホワイトラビット』(新潮文庫)

 仮想世界でのへんてこな出来事に身を委ねるのがファンタジーで、見えているものや聞こえているものは本当だろうかと疑い続けるのが哲学だとすれば、この小説はファンタジー哲学だ。
 べつに難しく考える必要はない。
 要するに、目の前に見えていることに騙されるなと言う事だ。

 白兎を追いかけて物語に引きずり込まれた貴方は、繰り広げられる現実に似たその世界が何処か現実感を欠いていて、まるで映画のスクリーンに映る世界を見せられている気になるだろう。だから、映画っぽいな、というのが読みながら私が感じた事だ。物語と私の距離感とでも言うのだろうか、映画に似ている気がした。
 現実に見せかけたファンタジー世界を舞台とした物語は伊坂の得意とするところだろう。
 どこが間抜けなドタバタ喜劇にも見えるこの物語は、何処かでこちらの世界と繋がっている現実っぽいファンタジーのよう。その半現実感が丁度よい浮遊感を与えているのかもしれない。

という訳で、私の評は★★★★☆。
星4つだ。

ひとつ星が足りないのは、私の読書環境のせいだと思うが、始まって3分の2が過ぎるまで、私の読み進める速度がスローペースになってしまったから。最後の3分の1は怒涛のスピードにアップしたが、こんがらがった物語を整理するのは初老の脳みそにとって厳しかったのかも知れない。

 何事にも裏があるのが世の常だが、現実の世界はこの物語ほどには複雑ではなく真っ当である事を願いたい。
 ともかく、何事も文字通りだと思ってはいけないのだ。

おわり





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