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映画『怪物の木こり』

 サスペンス・ホラーとでも呼ぶべきジャンルだろうか。
 時代を隔てたふたつの猟奇的な連続殺人事件が物語の中心にある。追う刑事たちと追われる犯人という構図は当然だが、もうひとつ中心に添えられているのが、タイトルにもある怪物の木こりという絵本だ。

 木こりの姿をして人間社会に溶け込んでいる怪物は、人知れず次々と人を喰っている。ムシャムシャ、ゴックン。絵本の物語を読み上げる子供の声とその内容のアンバランスさが奇怪だ。そういえば赤ずきんだって人が喰われるシーンがあったから、案外子供はそうした物語に耐性があるということか。ともかく、物語を読み上げる子供が誰なのか、ある意味でそれがこの映画のテーマでもある。

 社会への適応が難しい精神病質を持つ人が、時に人間社会に紛れ込んでいる。こうした人を異常と見るべきか、こうした病質を異常として区別することこそ異常と見るべきか。あらゆる病気は少なからず周囲の人に迷惑を掛けることになるが、中でも精神病質が嫌悪される傾向があるのは、他人に危害が加わる可能性があることに必要以上の焦点が当てられているからでもあろう。
 しかしながら、隣人が殺人鬼であっても良いなどと思う人はいるわけもなく、まして、殺される当事者やその身内にとってみれば、とにかくそういう奴は野放しにするなということになるだろう。
 だから、もし何らかの外科手術などで治療が可能であれば、それを望む声も多いはずだ。もっとも、そうした医療が常に正しく適用される保証はない。手術後に監視されるのであれば、それこそ誰も望まないかも知れない。


 ただのサスペンス、ただのホラーに終わらず、人間の本質に食い込んでくるような、内容を伴った作品だと感じた。グロイ描写には好き嫌いがありそうだが、作品としてなかなか良い映画だ。 
 忙しい俳優陣だから、スケジュールを何とかやりくりして撮影に参加したという人もいるのだろう。観ていてそんなことを感じさせられる場面が何度かあったのが残念だった。また、素人考えも甚だしいと一蹴されるだろうが、もう少しグイグイ引き込むような編集の仕方があったのではないかと思ってしまった。何と言うか、観る側の集中力が途切れてしまうシーン展開が幾度かあった。

 しかし何よりも、観ているうちに自分の精神病質を疑い出して、自分の気が付かないうちに周囲の人を殺していたらどうしようと不安になって気が気ではなかった。殺していないまでも、傷つけていることは間違いなさそうで、後悔が深まる前に何とかしておかなければと思った。

おわり


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