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Netflix『浅草キッド』
師匠が毛嫌いしていた「漫才」でコンビとして売れだした頃、貰った賞金をその師匠に小遣いと言って渡す。弟子から貰った小遣いを受け取る師匠がどこにいると怒鳴られながらも、そのカネで一緒に飲みに行った居酒屋では居合わせたお客さん全員が二人の即興話で盛り上がる。
途中、座敷から席を立つ師匠に女性客の脱いだハイヒールを差し出すシーン。
ハイヒールがアップになった瞬間、私は不意に嗚咽していた。涙が頬を伝い続けた。
あの時代、己の人生から逃げ、将来の当てもないひとりの青年が、苦しくもあり辛くもある日々を悶々と過ごしていた。ただ、何の根拠もない自信と夢を頼りに師匠の背中を追い掛けて、ひたむきに前に進むことだけが生きる糧だった。
出口の見えないそんな日々も、後になって振り返れば楽しい毎日として記憶の中に蘇る。
芸人は客に笑われるものじゃない。客を笑わすんだ。それが芸人だ。
下手な芸に笑う客に向かって、そんなんで笑うと芸人の為にならないと舞台の上から啖呵を切る師匠。それを見た若かりし頃の彼の目はキラキラと輝いていた。
誰かに憧れ、誰かを目指し、そしてそれを超えていく。
昔、その誰かは父親であり母親であり、アメリカであり世界であった。彼にとってのそれは、もちろん師匠だった。
でも、最初から超えようと思っていた訳では無い。むしろ超えられないと思える存在だった。浅草と言えば師匠、師匠と言えば浅草。
そんな浅草の代名詞だった師匠も、時代の移ろいとともに世間からは目が向けられなくなっていく。それでも彼は師匠に憧れを抱くことを諦めなかった。
その彼は、今や日本国民の誰もが知っている芸人になった。いや、世界でも知れ渡っている巨匠になった。
それでも彼はきっとこう言うだろう。
オレっちなんかさ、芸事は色々やってみたけど、どれも中途半端でさ。いつまで経っても、師匠の芸は超えられねぇなぁって。
でもいつか超えて師匠に恩返しがしてぇなぁって思ってんだ。
それが芸人ってもんだろ?
おわり
サムネ画像はhttps://skyskysky.tokyo/asakusa-kidより転載しています。
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