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感情と物理学

 物理学に作用と反作用の法則というのがある。
 力が作用する時には、反対向きの力が働いているとするものだ。
 作用と反作用は反対向きの力だから、相殺の関係にある。
 ここでの相殺効果は力の働く向きが逆だから起きる。力の量としては同じだけの大きさだ。
 力と力が拮抗してより大きな力になるということはない。

 好意を持って接すれば同じだけ返ってくる。悪意を持って接すれば同じだけ返ってくる。
 もちろんこれは一般論に過ぎない。
 優しくしても優しくされるとは限らない。
 意地悪しても相手は泣き寝入りをするかもしれない。
 だから人には作用と反作用の法則が働かないようにも見える。
 しかし、表面上は何もなかったのようでも、見えない反作用はあなたの心に応力となって残留する。

 あなたが誰かの悪口を言っている時、相手もあなたの悪口を言っているはず。そう思っておいた方が良い。お互いに嫌だという感情があるからこそ関係がぎこちなくなる。ぎこちないからこそ関係性がうまく築けず、どこが嫌なヤツと思えてくる。
 こういった負のスパイラルを正すのはかなり難しい。
 だから、悪口を言いたくなったときには、まずはあなたが言わないようにしたほうが良い。あなたから見て気に食わない人のことを考える時間は無駄でしかない。そして、自ら悪循環に飛び込む必要はない。

 正の感情も負の感情も、お互いの中での作用反作用が生じる点では物理法則と同じだ。そして現実的には、このような力は蓄積していく。
 感情の場合も双方の感情が目に見えないところで蓄積して行くことがある。それを上では物理で言う残留応力になぞらえた。

 物理は理想的な世界を扱った学問だから、応用の際はそれをなるべく現実に近づけるにはどうするかという考え方をする。それでも完全には現実世界をシミュレート出来ない。
 感情の場合、理想的な人間などどこにもいないから、現実的には悪い感情に│苛《さいな》まれる人が出てくる。まず現実ありきだ。その現実を切り刻んで細切れにしていって原因を探ったりしてみるが、そんなことは徒労に終わる。
 ミクロな世界には現実はないからだ。正確に言えば、ミクロな世界にはミクロな現実があり、それは私達の日常とは別の世界だ。

 ちなみに、物理で言う残留応力のことを英語ではResidual stressという。残って除去出来ないストレスのことだ。
 そして、西洋では理想的過ぎて人間を超えた存在として神がある。それはあたかも物理学で持ち出される理想状態に匹敵するもののように思える。

おわり

 

 

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