② 「学習指導要領」に示された指導事項1 ー 叙述

マガジン「小学校の国語科の授業 理論編⑨」において、国語科においては「『何を教えるか』は明確に決まっている」と述べ、それが書かれているのが学習指導要領であると述べてきました。
学習指導要領では、国語科で育むべき学力を、学校教育法30条で示された学力の定義のように「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「主体的に学習の取り組む態度」の3観点で分析的に捉え、さらに「思考力、判断力、表現力等」については「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の3領域に分けて示しています。

まず①で示した「自然と身についてはこないもの」としての「文学の言語」について考えていきます。言葉についての指導事項は、「知識及び技能」の中の「言葉の特徴や使い方に関する事項」で示されています。例えば、「言葉の働き」については以下のようになります。

<第1学年及び第2学年>
ア 言葉には、事物の内容を表す働きや、経験したことを伝える働きがあることに気付くこと。
<第3学年及び第4学年>
ア 言葉には、考えたことや思ったことを表す働きがあることに気付くこと。
<第5学年及び第6学年>
ア 言葉には、相手とのつながりを作る働きがあることに気付くこと。

この中の第3学年及び第4学年に示された「考えたことや思ったことを表す働き」について考えてみます。「論理の言語」としては「~と考える」「~と思う」と言えば、それは「~と考える」「~と思う」という人間の感情(気持ち)そのものを表すことになります。しかし、「文学の言語」では「~と考える」「~と思う」という気持ちは直接的に表現されないことが多いのです。
マガジン「小学校の国語科の授業 理論編」の⑦では、『ごんぎつね』(4年生の3学期に指導)を用いて以下のように説明しました。

『ごんきつね』の中で、ごんが兵中の獲った魚をいたずらしているうちにうなぎに首に巻きつかれ、その場を兵十に見つかってしまいそのまま逃げ帰るという場面があります。そして、穴に帰ったごんは以下のような行動をとったと書いてあります。
「うなぎの頭をかみくだき、やっとはずして、あなの外の草の葉の上にのせておきました。」
この表現からどんなことが読み取れるでしょうか。単にうなぎを首から外して捨てたという行動だけではありません。そこからは、ごんの、
「うなぎはぬすんだんじゃない。ただいたずらしていたらまきつかれただけだ。食べるところは痛まないようにはずしたのでまだ食べられる。お返しするよ。」
という気持ちまでが読み取れることでしょう(単に首に巻き付いたうなぎを外すのであれば、実際に巻き付いている胴体の部分をガブリと噛んでしまえばうなぎはバラバラになってすぐに外れるはずです。それなのに、どうしてわざわざ「頭をかみくだき」「やっとはずし」たのでしょうか。そして、なぜその辺に放り投げないで「草の上に」「のせた」のでしょうか)。
表現された言葉の意味としては、ごんのうなぎをはずした行為しか言い表していませんが、そこからはごんの気持ちまで読み取れるのです。これが日常の言語の特徴を芸術の域にまで高めた文学の言語なのです。

このような「文学の言語」を「叙述」と言います。『学習指導要領解説 国語編』では、「登場人物の気持ちを、行動や会話、地の文などの叙述を基に捉えていくことが求められる」と書かれています。このマガジンでは、気持ちを捉えるために根拠となることが表現されている言葉や文のことを「叙述」と定義していきます。
この「叙述」は、「知識及び技能」の中の「言葉の特徴や使い方に関する事項」ではなく、「思考力、判断力、表現力等」の中の「読むこと」領域の指導事項として示されています(具体的には③で示します)。
つまり、「自然と身についてはこないもの」としての「文学の言語」は、「論理の言語」のように「知識及び技能」として教えていくのではなくて、「思考力、判断力、表現力等」を働かせて解釈できるように指導していくものであると言えるのです。

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