マンガソムリエがClubhouse(クラブハウス)で漫画を紹介してみた。おすすめ漫画5選
【レビュアー/兎来栄寿】
どうも、マンガソムリエの兎来栄寿です。
最近、新しく登場した音声SNSの「Clubhouse(クラブハウス)」がブームを巻き起こしていますね。漫画業界でも、早速多くの人がさまざまなことに挑戦している様子が見受けられます。
この記事を書いている日の前夜には、集英社の森さん(「マンガテック2020」のプロデューサー)と「ヤングマガジンのスズキ」こと講談社の鈴木さん(漫画家と編集者のマッチングサービス「DAYS NEO」を立ち上げた方)が主導で、「集英社VS講談社」と題した対決トークが繰り広げられていました。
その後には『ONE PIECE』を立ち上げた浅田貴典さんや、『チェンソーマン』の担当編集である林子平さんらも参戦し、興味深い数々のお話が聞けました。
そして、今この瞬間も西義之さん、大石浩二さん、うすた京介さん、麻生周一さんらジャンプ作家が集結した豪華な「漫画家井戸端会議」が行われているのを横耳に聞きながら原稿を書いています。
『東京トイボクシーズ』を連載中のうめさんは、漫画家を集めてその日の作業目標を宣言して共有し合う「漫画家の朝礼」といった面白い試みもしています。
Clubhouseの第一印象として、音声のみというのは作画時に手と目だけ動かしていて耳が空いている時間が多い漫画家の方々にもかなりフィットするのではないかと思いました。そして自分でもこれを使って漫画を紹介する番組をやることもできそうだなと思いました。
ちょうどそんな時に、お仕事でご一緒した方から「兎来さん! 今夜Clubhouseでマンガ紹介しませんか!」というお誘いを受けて15分だけオンラインマンガソムリエをしてきました。
Clubhouseの特徴として良くも悪くもアーカイブは一切残らないというところがあるので、その代わりとして今回は放送中に寄せられたオーダーとレコメンドをまとめておこうと思います。
面白い「漫画家マンガ」ありますか?
Q.『G線上ヘヴンズドア』や『狭い世界のアイデンティティ』など、漫画家を描いた漫画は面白いものが多い気がするんですがお薦めの作品はありますか?
A.まさに、1月に1・2巻同時発売された今月のお薦めがあります。『みどりの星と屑』です!
『みどりの星と屑』は、漫画家を目指すマンガ専攻の美大生4人を中心とした群像劇です。そして、明るい青春ものというよりは創作にまつわる人間のダークサイドを抉り出す、『ヨイコノミライ』を髣髴とさせるような作品です。
努力して、クリエイトして、それが世間に認められて評価されればそれに越したことはありません。しかし、残酷なまでに才能と運とタイミングが物を言う世界では、積み重ねた年月などいとも容易く吹き飛ばされてしまうこともしばしば。
「お気をつけなさい」
「嫉妬というやつに」
「こいつはみどりの目をした怪物で」
「人の心を餌食とし」
「それをもてあそぶのです」
という、1話の冒頭と最後に出てくるシェイクスピア『オセロ』からの引用がタイトルの「みどり」にも掛かり、この作品全体の行く末を暗示します。
ヒロインの翠のことを単純に嫌える、あるいは理解できない人はきっと幸せで、そうでない人にはどこまでも深く突き刺さるであろう物語です。
1・2巻が同時に発売になる作品というのは編集部が推したい作品であったり特別な意図が込められていたりすることが多いですが、この作品も多分に漏れませんのでぜひ2冊一緒に買って読んでみてください。
焦がれるような切実な恋愛マンガ求む!
Q.高木ユーナ先生の『不死身ラヴァーズ』が大好きなんですが、そんな私にお薦めの恋愛漫画はありますか?
A.『青野くんに触りたいから死にたい』、『ガチ恋粘着獣』をお薦めいたします。
『青野くんに触りたいから死にたい』に関しては、敢えてあらすじにも触れません。ただ、この作品の中で描かれる狂おしい感情は、『不死身ラヴァーズ』が好きな方には間違いなく刺さるでしょう。青野くんには触れてもネタバレには決して触れないようにして、最新7巻まで一気に読んで頂きたい作品です。
『ガチ恋粘着獣』は、昨今話題となっている動画配信者をテーマにして、有名動画配信者にガチ恋してしまったパンピー女子を描く物語です。ヒロインがなけなしの給料の中から推しに高額の投げ銭をする様は『闇金ウシジマくん』もかくや、という現代社会のリアルさを感じます。
推しを尊いと思う純朴な感情から始まって、ドラスティックに展開していく物語は最高に「今」を描いています。狂気的な側面が非常に秀逸な作品ですが、読めば解るそれだけではない魅力、「愛の力」を感じさせられる作品です。2020年の一押し作品です。
面白い中堅どころの異世界転生モノが知りたい!
Q.『転スラ』から入って異世界転生モノが好きで、有名なものは一通り読んだんですが、有名過ぎない異世界系で面白い作品があれば教えてください。
A.ある程度読まれている方なのであえて少し王道から外したところで『異世界もう帰りたい』、『ライドンキング』などはいかがでしょうか。
『異世界もう帰りたい』は、ドリヤス工場さんという水木しげるさんそっくりのタッチでさまざまな漫画を描く方による異世界ものです。
石を10個貯めると異世界から「聖訪者」を呼び出せるというどこかで聞いた設定の世界に呼び出された何の変哲もないサラリーマンが、元の世界に帰る方法を探りながらその世界で暮らしていくという物語です。
剣と魔法の世界に来ながらも、食堂で人と目が合わない座席を確保しようとしたり、クチャラー(食事の際、くちゃくちゃと音を出して食べる人)と隣になって気分が落ちたりと、極めて現実的で些細なことを異世界でも気にして生きていく姿に哀愁と笑いが湧きます。
異世界もの作品へのメタ的な描写も多く、水木しげる風の絵で「ここで俺に秘めたる能力が目覚めて一気に俺ツエー無双が始まるのかな」といったセリフが出てくるところはたまりません。
別の聖訪者との出逢いや冒険、大きな戦争などもあり物語は展開していきますが、今ひとつうだつの上がらない淡々としたテンションで進んでいく読み味は独特で癖になります。
『ライドンキング』は、どこからどう見ても某国の大統領にしか見えないプルジア共和国の大統領アレクサンドラ・プルチノフが、異世界で大活躍する物語です。
あらすじやビジュアルだけ見ると「出落ちかな?」と思ってしまうのは無理からぬことですが、この作品の大きな美点はギャグはギャグとしてはっちゃけながらも(随所で繰り出してくるパロディネタは爆笑ものです)、主軸においては真面目にファンタジー物語を展開させていくところです。
絵はよく描き込まれていて美麗で、大統領として濃密な人生を歩んできたがゆえに深みのある主人公はもちろんのことサブキャラクターにも魅力があります。
純粋に先を楽しみにさせてくれる優れたエンターテインメントで、まだ巻数も5巻とちょうどいいくらいなのでぜひ今からでも追い掛けてみては。今後アニメ化されてブレイクするのを楽しみにしている作品です。
おわりに
今後も不定期ではありますがClubhouse上で何かやっていくかもしれません。@toraieisuでやっていますが、私のフォローはしなくていいので紹介した漫画を読んで下されば本望です。