高所、閉所、先端、隙間……あらゆる恐怖症の極限に潜む人間の狂気に、震えが止まらない『フォビア』
【レビュアー/南川祐一郎】
想像力豊かな方にはおすすめしません
もうすっかり夏も終わったのにホラーの話? ってなるかもですが、久しぶりに読んででゾッとした作品がありました。性格の悪い僕はこの恐怖をみんなで共有できたらちょっとは怖さもマシになるかなと思いまして(笑)、この漫画をご紹介をさせていただきたいと思います。
ただ、読むと確実に心の隙間部分に不安や恐怖の種が、そっと…いや、ずっと居座り続けることになるので、引き返すなら今のうちですよと念の為忠告しておきます。
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ということで皆さま覚悟は完了しましたでしょうか?
今回ご紹介するのは原克玄先生とゴトウユキコ先生がタッグを組んだ『フォビア』です。
原先生は『るみちゃんの事象』や『ハラストレーション』などシュールなギャグを描かせたら天下一品なギャグ漫画家さん。ゴトウユキコ先生も『夫のちんぽが入らない』のコミカライズが有名ですが、『R-中学生』や『きらめきのがおか』など面白くもあたたかい漫画を描かれる先生です。
なので、このふたりがタッグを組んだと言われたら、きっと面白いギャグ全開の青春群像劇的な作品かなと思うじゃないですか。
なのに、まさかの、ホラー。
ただ、よく読むとふたりの先生のカラーがこれでもかと詰め込まれてる作品なんですよね。
この『フォビア』とは、恐怖症のことなんですが、そのタイトルの通り、ここで描かれるオムニバスは、すべてなんらかの恐怖症を持った人たちの苦しみや葛藤、そして悲劇を描いています。
ホラーと言っても、悪魔もお化けも一切出てこないですし、ファンタジーちっくな展開も全くないんです。
だからこそ、あまりにも怖い。
恐怖症というと、高所恐怖症、閉所恐怖症、先端恐怖症、隙間恐怖症など色々なものがありますが、どれもすべてあまりにも豊かな想像力による恐怖なんですよね。
高所恐怖症の人は落ちて死ぬ姿を想像してしまう。
先端恐怖症の人はそれが突き刺さった痛みを想像してしまう。
閉所恐怖症の人は身動きができないその環境が無限に続く不安を想像してしまう。
それが人よりも深くリアルに想像できてしまうことで、そこにひそむ恐怖をも強く感じてしまうんです。
ホラー作品が人の不安を巧みについて怖がらせてくるように、こういった不安感や想像力は誰しもが持っています。
見えていない扉の向こうのきしむ音に怪異を想像してしまうように、その漠然とした不安の中に一度でも恐怖の種を植えつけてしまうと、もう二度とそれを消し去ることができなくなるわけです。
知らないものは想像もできないから怖くもないけど、一度でも知ってしまうともう終わり。
そして、恐怖症はオカルトでもファンタジーでもない、現実に当たり前のように存在するリアルなものです。その行き着く先の狂気や悲劇を描いたこの『フォビア』を読んでしまうことで、もう僕らには一生刈り取れない種が植えつけられてしまうのです。
原先生とゴトウ先生は、なんというホラー作品を送り出してきたのか…。
本当にタチが悪いなと恨みながら、どうしてもまた続きを読みたくなる…。
ホラー作品が好きな僕のようなタイプの方には最高にオススメできますが、心穏やかに過ごしたいと思う方は、軽い興味本位で読むのもやめておきましょう(笑)
それくらい、この作品は、恐ろしい、だけどとんでもない名作です。