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テレワークの必読書。天気予報の唯一の存在意義に気づかされる『BLUE MOMENT』の空がこんなにも美しい理由。

昨夜、僕の横には長男(8)、次男(6)、三男と四男(4)の双子が酷い寝相で布団を占拠していました。

彼らを正しい位置に戻し、布団をかけていると「ぐらっ」と強い揺れを感じ、そのとき、僕の脳裏を駆け抜けたのが「新型コロナウィルスの感染抑止に向けた、自宅待機の中で、新たな自然の脅威が襲ってきたらどうしたらいいんだ」ということでした。 

『BLUE MOMENT』(小沢 かな・荒木 健太郎)は、気象庁気象研究所に勤める主人公、晴原柑九朗が「天気予報が存在するたったひとつの意味」を、私たちに伝える社会性と、専門的知見をストーリーに乗せて描く学習性、何よりさまざまな気候を描く風景がとても綺麗で見惚れてしまう漫画です。

SNSフォロワー60万人、写真集や著書の累計販売200万部突破、雲王子「ハルカン」こと春原研究官のいる研究所に突如現れたのが、社会人2年目、23歳の雲田彩。でかい組織に守られて、仕事もできないくせに派遣社員を下に見る正社員に、お茶をぶっかけ、英語で罵倒して失業。 失業保険の給付が切れ、生活費を稼ぐためにたどり着いたのが気象研究所であり、晴原研究官の助手としてアサインされるところから物語は始まる。

表では煌びやかな世界で活躍している晴原も、出たくてテレビに出ているわけじゃない。SNSも好きでやっているわけではない。研究所での晴原とのギャップを茶化す雲田にこう言い放つ。

「表面しかみずに決めつけて、物事を判断する。おまえみたいなタイプが俺は一番嫌いなんだ。そして必要のないものに時間を割くほど暇でもない。興味もない場所で無駄に働くお前と一緒にするな。バカめ」 

僕らは天気予報を、今日は傘を持ってでかけるかどうか。今週の週末はどこでどのように過ごすか。そろそろ冬物のコートをしまってもよさそうか。そんな日常生活の意思決定の参考情報として捉えています。

一方、気象のプロフェッショナルである晴原のような人間からすれば、それらは天気予報の存在価値の小さな一側面でしかありません。

では、天気予報は何のためにあるのか。

2019年、日本は台風や集中豪雨など、自然災害のなかでも特に気象面での災害が大きかった一年だったように思います。『BLUE MOMENT』は、”線状降水帯”のような専門用語も、僕らにわかりやすいように図と物語で解説されていきますので、とても学びになります。

また、自然災害から市民を守るため市役所での立ち回りシーンも多くあります。防災危機管理、防災行動計画、避難指示など、何かあったときに知っておくべき基礎用語も頻出します。

被害を最小限に食い止める、命を何よりも優先する、という当たり前の意思決定も、たった1秒、たった1分の遅れや躊躇で、守れる命も守れなくなってしまいます。その意思決定は僕らが選挙で選んだ政治家に、僕らが働くことを選んだ会社組織に、そして僕らが居住を選択している地域行政に委ねられます。

誰かの意思決定に自分たちの命や物事の判断を委ねなければならない瞬間があります。だからこそ、私たち自身も意思決定を丸投げせず、危機的な状況のなかで専門家の知見に耳を傾け、科学的根拠に基づきながら、その意思決定が「命を守る」ために正しいものであるのかを判断できるようにならなければなりません。 

まさに、いま僕らの社会が地球レベルで危機的な状況にある、と言われているからこそ、『BLUE MOMENT』は、私たちがテレワークの間に読んでおくべき一冊だと思います。

本書の本筋からは逸れますが、著者の小沢かなさんは『ブルーサーマル – 青凪大学体育航空部 – 』も世に出されています。空の風景が本当に綺麗です。描かれた風景を一冊にまとめた本があったら絶対に買います!

WRITTEN by 工藤 啓

※「マンガ新聞」に掲載されていたレビューを転載

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