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孫悟空はサイコパス!?少年漫画史上最狂の主人公はその血塗られた両手に罪悪感を持つことは一度としてなかった。『ドラゴンボール』

※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)

【レビュアー/ミヤザキユウ

サイコパス、という人たちのことをご存知でしょうか。

反社会的人格という意味の心理学用語で、一番有名なのは『羊たちの沈黙』のレクター博士だと思います。 

しかし厳密には彼のような猟奇殺人鬼を指す言葉ではなく、「良心の呵責がない」とか「他人に共感できない」などといった性質を持ち合わせている人のことを指すそうです。


USJのマーケティング最高責任者・森岡毅さんの近著『確率思考の戦略論』では、ビジネスの文脈でサイコパスを「目的に対して純粋に正しい行動を取れる人」、サイコパス性を「感情が意思決定の邪魔にならない性質」と定義しています(念のため申し上げておくと、サイコパスについて書かれた書籍ではなく、マーケティングの本です)。

人は目的を達成するための合理的な手段を、理屈ではわかっていても実際にやるとなると躊躇あるいは拒否してしまうものです。

人間関係や好き嫌いなどの感情要素が意思決定に影響するのは、人の常です。

しかしサイコパスは、違います。レクター博士があらゆる手段での殺人を躊躇しないように、サイコパスなビジネスパーソンは結果を出すためのあらゆる行動をためらいません。

そのため、スティーブ・ジョブズを始め、偉大な起業家の中にはサイコパスだと言われる人が多くいます。

なぜ突然こんな解説を始めたのか。それは最近僕が、友人から頻繁に"サイコパスだ"と言われるからです。深く、深く人を傷つける心無い言葉です。

そこで僕はマンガHONZレビュアーらしく漫画で反証するため、本棚を漁りました。

「本当のサイコパスとはこのような人物であり、自分は違う」

そして見つけたのが『ドラゴンボール』の主人公、孫悟空でした。

多くの読者は彼に対して、ポジティブなイメージを持たれていることでしょう。たしかに彼は多くの敵から地球や仲間を救ったヒーローです。しかし前述の通り、サイコパスは極端な目的志向を持つ人物です。

結果だけを見ていては、本質を見誤ります。

本レビューでは、彼が目的を達成するために選択した数々の躊躇無き異常言動を紹介していきたいと思います。()付きでサイコパス性も解説します。

殺されたみんなや破壊された地上は、ドラゴンボールでもとにもどれるんだ。気にすんな。

ピッコロたちを差し出せば地球の破壊をやめると言う魔人ブウ陣営。そこで地球と人命を守るため、名乗り出ようとしたピッコロに向けた言葉。

彼は最終的に魔人ブウを倒せさえすれば、過程や方法はどうでもいいのです。まるでDIO様ですね。死の恐怖に怯える他人の気持ちなんて、屁でもありません。(著しい共感の欠落)

ちなみに、1コマも置かずに同調するデンデにもサイコパスのケがありそうです。

や、やれ悟飯!! やるんだ!!! 気にするな!!! 今のうちにやれーっ!!!

ゴテンクスを吸収している魔人ブウに対峙する悟飯に向けた言葉。

ここでも魔人ブウを倒すため、自分の息子に対して実弟の殺害を指示しています。(罪悪感の欠如)

さすが、自分の兄もろとも魔貫光殺砲に貫かれて死んだ男は言うことが違います。

映像水晶越しであるため、悟飯本人には届いていないことが唯一の救いだと言えます。

わ、わりい界王さま。ここしかなかったんだ…

地球を破壊するレベルで爆発する直前のセルを、瞬間移動で界王星に運んだあとの言葉。

1秒後、悟空だけでなく界王さまもペットのバブルスくんも、爆死します。

地球を救うというミッションが達成できるなら、他の星も、他の星の住人の命も大きな問題ではありません。(結果至上主義)

彼の中には、ブレることなく命の重さを計測できる秤があるのでしょう。

これらの言動に、"終わり良ければすべて良し"と嘯いても擁護しきれない闇を見た気がするのは私だけでしょうか? 目的達成のために日々脳に汗をかいている善良な人たちが、無意識に避ける選択肢を取れるその精神性に違和感を覚えませんか?

孫悟空。

彼のような人物こそが本当のサイコパスです。『ドラゴンボール』を読めば、僕なんて大した問題ではないということが友人諸氏にも理解してもらえると思います。


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