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ナンパ師に学ぶ、人から信頼と自信を勝ち取る方法『ピックアップ』

【レビュアー/工藤啓

とにかく自分に自信がない

世界22か国で最も仕事に自信がない国、日本。

昨年2月にBUSINESS INSIDERが取り上げたのはLinkedInが発表した「仕事で実現したい機会に対する調査」だった。

今後の展望も、生活の先行きも、自分への自信も、とにかく数値は最低ランク。仕事については最も悲観的で自信がないことが明らかになってしまった。

若者への就労支援を行う認定NPO法人育て上げネットを通じて、無業の若者約2,000名への調査をまとめた「若年無業者白書」でも、支援機関を利用する理由として、働く自信を得たいという回答が上位であった。

そうはいっても、いまこの瞬間に働く自信を獲得したい人間にとって、どのような教育をしていくべきかといった大きな話は不要だろう。もっと言えば、すぐに働く自信を得られるとは思ってないが、何か自信につながり得る方法論、解答は欲しているのかもしれない。

ネットを開けば「自信のないひと」に対する助言や、商品・サービスはあふれている。書籍だって読み切れないほど出ている。過去はどうあれ、いまは自信に満ち溢れている著名人の話も、自分とは別世界のこととして切り離したり、論評していないだろうか。

自信のない自分に嫌悪感を抱き、変わりたいと心から思っている。しかし、成功者は異世界者と割り切り、努力している他人の姿は否定的にしか観ない。そして環境や周囲の人間に理由を押し付け、小さな自分を守り続ける。そんな自分に辟易しながら、もう何年も経っている。

キツイ!苦しい!ツマラナイ人生だ!いいなぁ~あの人、自由そうで!僕も生まれ変わりたい!無理だよなぁ。

こんなことを心で思いながら、出版社のファッション誌編集部で働くのが主人公・南波(みなみ)という男だ。

女性への憧れを持ちながら過ごしてきた23年間。中学高校は私立の進学校。大学は都内の有名校。自宅は世田谷で就職するまで実家暮らし。顔立ちはそれなりによかったものの、母親の自分に対する歪んだ愛情が異性への思考を歪ませる。

その南波には憧れの先輩、同じ部署で上司の藤原武志がいた。容姿端麗、仕事もバリバリこなす。批判的な上司も結果で黙らせる。傍から見れば優秀で羨ましい人間に映る。南波も藤原のようになりたいと勇気をもって告げると、藤原は自身が主宰する「魁ナンパ塾」への入塾を勧める。

人から信頼される人間になるには

ナンパ塾・・・。この展開に興味を持ったひともいれば、興味を失ったひともいるだろう。『ピックアップ』はナンパ塾を通じて、主人公が成長していく姿を描く漫画である。そのため男女関係のシーンも少なからず登場する。

しかし、私が本書を勧めたいのは、自分に自信のない人間が、生活や仕事の日常のなかで小さなチャレンジと成功体験を積み重ねるためには何が重要なのかというヒントがあるからだ。「自分は気にしていない」という自分視点が、いかに人間関係の幅を狭め、知らぬ間に機会を逸しているのか。

友人や同僚、家族や上司から言われても、真剣に聞くにはいささかセンシティブな話も、漫画という自分との対話を可能とするメディアなら素直になれる。うまくいくも、うまくいかないも漫画の世界かもしれないが、そういって今日と明日が同じだと変化の機会は出現しない。

魁ナンパ塾の初日を終えて、何もできなかった自分を責める南波。それに対して藤原が伝えたのは、人から求められる人間になるということだ。そのためにはよく観察する人間でなければならない。人の表情や微妙な動きも見逃さないこと。細かいところの気遣いをすること。これが本質だ。自分のことばかりを考えて信頼されるわけがない。

仕事は恩返しでつながっている世界である。

仕事をしていれば、うまくいくときもあれば、うまくいかないときもある。また、何をしてもよい方向に転ぶことがあれば、何をしてもうまくいかないことが続くことだってある。

うまくいったら自分の才能、ダメなときは自分以外の何かの責任。このような考え方では仕事のできる人間にはなれない。藤原が強いコネクションを持って難局を乗り切った。傍から見れば偶然のサポートがあったように見えたが、やはり偶然なんていうものはない。

売れ始めて調子こいて 総スカン食らって干された時期があったんだ。でも俺は彼の才能を信じて仕事をふり続けたんだ。

これは誰かの勝ち馬に乗っているだけの人間にはできないことだ。誰かの努力や才能を信じたのであれば、そのひとが厳しい状況に置かれたときでも周囲に流されることなく手を差し伸べる。そのような振る舞いは、いざというとき企図せぬ恩返しとなって身を助けるかもしれない。

ちなみに、藤原は恩返しを望んでいるわけではない。その証拠に南波が致命的なミスをフォローした後の居酒屋での言葉がある。

いいんだ 俺も新入社員の時 同じようなことを今の編集長にしてもらったんだ お前が今より成長したら 自分の後輩に何かしてやれ

さて、自分に自信がないというひとが諸外国に比べてとても多くいる私たちの社会ではあるが、自分のなさを補った先に、私たちは何を求めるのだろうか。

恋愛や仕事がうまくいく、家族関係がよくなる、何となくうまくいっていない日常に彩が添えられる。で、その結果どうありたいのか明確だろうか。

南波は、うまくいかない日常、変われない自分のために自信がほしかった。そして、その自信を獲得したとき、何となくもやもやした感情に気が付く。

そもそも自信を得て、どうしたかったんだっけ。

南波が見つけた結論は何か。全2巻完結の『ピックアップ』を読んで確かめてほしい。