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雑音に疲れた今、みんなの心が求めている「無音の世界」がここにある。『ゆびさきと恋々』

こんにちは! 東京ネームタンクのごとうです。最近はマンガスクリプトドクターとしての活動もしています。そして最近はnoteもほぼ毎日更新しています。より詳しい漫画技術を知りたい方はこちらもご覧くださいね。

東京ネームタンクnote
やさしさ創作村note

こちらでは漫画の技術的な側面から、いまオススメの漫画を紹介して参ります。今日取り上げるのは……。

『ゆびさきと恋々』(森下suu/講談社)

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『ゆびさきと恋々』(森下suu/講談社)1巻より引用

音が聞こえない女の子がトリリンガルの男の子に恋をしていくお話です。描かれる感覚がほんとうに綺麗で……。主人公・雪の、その名の通り「雪」が積もっていくような、静寂の世界の恋を味わうことができる作品です。社会問題と一括りにするにはあまりに野暮。近年、社会問題を取り扱う作品はとても増えています。そしてその取り扱い方も、障がいを乗り越える……。とかそういう話ではなくなってきています。

主人公の女の子は聴覚障がいを持っていますが、音が聞こえない、というのは個性のひとつです。個性として社会に受け入れられつつあるので、ようやくそこにあった感情にも着目できるようになったのではないでしょうか。『ゆびさきと恋々』にはまだ僕らが知らなかった感情に溢れています。

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『ゆびさきと恋々』(森下suu/講談社)1巻より引用

音のない世界で広がっていく恋。こんなに美しいものが描けるのは、ほんとに漫画だけだよな……。と改めて感じました。

モノローグが入ることで、主人公が喋れないということが読者にとってはまったく不都合になりません。またそのことでむしろ「雑音がなく」目の前の恋に集中できるんです。

サウンドオブサイレンス 「沈黙の美」。

雪が静かに街に積もっていくときの、無音の窓の外。雪が音を吸収するのか、いいものですよね。

現代人はいま情報に溢れ、雑音まみれの社会を生きていると思います。そんな中でこの無音の世界の心地よさ。雑音がない世界で何かひとつのことに没頭したい、というのはいま誰しも求めているのではないかと思います。

音のない世界の中で、主人公の「雪」という名前の通り、ひとつひとつの言葉にならない経験が、まるで雪のように心に積もっていくのを感じます。こんな感情体験ができるなんて……。

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『ゆびさきと恋々』(森下suu/講談社)1巻より引用

森下suu先生に見えていた世界、きっと惹かれた世界、これまで誰も知らなかった世界の魅力。それを圧倒的演出力で確実に、しかし気取られないように、この漫画は伝えてくれます。

やりとりする言葉が「斜めに傾いている」のが「雪のように降り積もっていく」心理的効果を狙っていることに、みなさんは気づけたでしょうか。

オススメは耳栓かノイズキャンセリングヘッドホン。漫画にとってもっとも大事なもののひとつに「感情のオリジナリティ」があるといつもお話ししています。その状況になった人しか味わえない感情を読者は求めています。

僕はたまたまなんですが耳栓をしながら再読したんですね。そのおかげでより完璧に別世界に連れて行ってもらえました。今もその勢いで記事を書いていますが耳栓外したくないですもんね。雑踏の世界に戻りたくない!

感情体験として抜きん出ている作品なので、みなさんぜひ読んでみてくださいね。その際にはできるだけ静かな空間がおすすめです。ソニーから最近ノイキャン新製品出ましたよ!

追記:森下suu先生を担当している元デザート編集長しーげるさんと【少女まんが勉強会】を開催しています。漫画家さん、漫画家志望者限定の月1回の勉強会です。こちらもご注目ください!

WRITTEN by ごとう隼平
※「マンガ新聞」に掲載されていたレビューを転載
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