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朝ドラでやって欲しい!日本のデパート誕生の激動を描く『日に流れて橋に行く』

時代の変化があるところにはいつも物語あり。日高ショーコ先生の『日に流れて橋に行く』(集英社)は、明治時代を舞台に老舗呉服店の立て直しを描く物語。目の前の顧客が望むものの提供や、消耗戦ではなく面白いものへの追求と、現代にも通じる商売のヒントも詰まっています。

流行ではなく消費者が望むものを「三つ星呉服店」の戦略

舞台は明治時代。江戸から時代が変わる中、人々の生活を支えてきた商売も変わらざるをえません。そのひとつが呉服屋です。老舗呉服屋「三つ星呉服店」の三男・星乃虎三郎(ほしの・とらさぶろう)が欧州のデパートメントストア経営を学んで帰国するところから物語は始まります。

虎三郎は「三つ星」の新店開業をもくろむも、送り出してくれたはずの兄は事業への興味を失い、ほかの番頭や手代からは新店建設の計画がなくなったことを突き付けられる。周りに味方がほとんどいない中で、虎三郎は呉服店で入ったばかりの従業員が担う下足番を務めながら、英国で出会った事業家、鷹頭玲司(たかとう・れいじ)とともに「三つ星」の改革ために少しずつ動き出します。

物語の舞台は明治44年(1911年)。実際の歴史では、明治37年(1904年)に日本初の百貨店として三越が開業し、「デパートメント・ストア宣言」を出します。その後多くの呉服店が百貨店に転換し、事業拡大を競います。

『日に流されて橋に行く』の中でも、派手な宣伝で流行を作り出す日越百貨店と、洋服事業に強みを持つ黒木屋呉服店との厳しい競争が描かれます。しかも、日本は日露戦争後の不況期。世界的にも米国の中央銀行制度の発足のきっかけとなった1907年の金融恐慌の影響から抜け出せていなかった時代。決して景気がいいとはいえない時代です。

こうした状況での老舗復活劇に向けて虎三郎は、潜在顧客の認知度を上げ店への来店を促しつつ、新規投資に回す資金を確保しなければならない。具体的に何をしたかは是非作品を読んで確認していただきたいのですが、全体を貫くのは、競争相手の呉服屋のような流行の発信ではなく、目の前の顧客に合う商品の提案という方針です。

もちろん、過去に抱えた在庫を売り切らなければならないという事情もありますが、「流行のものを身につけるべき」という「常識」に一石を投じることになります。これ以外にも、店の格を維持しながらの在庫処分や店舗改装への新規投資、新聞小説という当時最先端のコンテンツを使ったマーケティング戦略など、今のビジネスシーンにも通じる考え方が読み取れます。

核心を突くのは、虎三郎の「変化して先に進んでそうしてようやく現状が維持できるんだ」という言葉。ビジネス特許という考え方のない時代、商売のやり方はほかをまねし、まねされるの繰り返し。しかも長く事業が低迷していた「三つ星」は投資のための資金も限られています。

その中で「立ち止まればすべてが終わる 常に、世間を驚かせよう」と虎三郎は消耗戦ではない面白いしかけのために知恵を絞ります。もちろん虎三郎と鷹頭のデパート事業最先端である英国での経験は大きいですが、「お店に来てもらい、商品を手に取ってもらうにはどうすればいいのか」というシンプルな目の前の課題への解決策を少しずつ積み重ねる姿が描かれます。

働くことで自身の新しい居場所を作る女性たち

『日に流れて橋に行く』の物語の面白さは、女性陣の活躍にもあります。まだ女性が働ける場所は限られていた明治時代に、作中の百貨店各社は店頭での販売員として女性の採用を進めます。「三つ星」もそのひとつで、改革の過程で2人の女性が店員として加わります。

ひとりはほかの百貨店で販売員経験を持つ坂巻千鶴。もうひとりは全くの素人ながら長身とファッションオタクであることを買われた卯ノ原時子。女性が働くことへの反発が強い中、千鶴は売るという実績を作ることで、時子は偶然与えられた仕事にしがみつくことで居場所を作っていこうとします。(実際の史実でも、明治30年ごろから女性店員の採用が始まったようです)

流行ではなく、お客が求めるものを売りたい千鶴も、女学校卒業後結婚できずにいた時子(明治時代、女性は女学校卒業前に結婚相手を見つけることが「理想的な道」とされていました。作中には時子と対照的に、親の決めた相手と結婚するも、子どもができないことで離縁される女性も登場します)も、従来の常識にとらわれる中では居場所がなかった2人でした。それが、「三つ星」との出会いで居場所を見つけていきます。

特に時子は、商売に関わるものとしては素人ですが、ファッションに関しては周りの人から言われる通りには動かず、自分らしさをあきらめません。偶然ながら得られた舞台の上で生き生きと働く姿が描かれます。

もちろんこの漫画は「フィクション」ですので史実通りではありません。しかし、老舗の変化の難しさや御一新(明治維新)によって権威を失った上流階級の財政面の苦しさ、女性の働く場所の少なさといった時代背景をベースに、先が気になる物語が続きます。

「少年ジャンプ+」に参戦!

『日に流れて橋に行く』はもともと、「月刊YOU」で連載が始まり、休刊とともに「クッキー」に掲載誌が移ったという経緯があります。集英社の中ではいわゆる女性向けレーベルなのですが、現在集英社のアプリ「少年ジャンプ+」に掲載されています。6話までは無料なので、ぜひアプリを携帯やPCなどに入れている方はお試しで読んでいただきたいです。

WRITTEN by bookish
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