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「空気を読む」ことに悩むすべての人の心を軽くし、他者にやさしくなれる処方箋のような物語『スキップとローファー』

【レビュアー/澤村晋作

先日、友人から面白い漫画がないかと聞かれたので、ある漫画を勧めたところ、試し読み部分でハマったらしく10分ほどで「全部買ったわ」と返事がきました。

この成功体験をもとにオススメするのは、まさにその漫画、

『スキップとローファー』です。

1・スタートとスリップ

主人公は、15歳の少女・岩倉美津未

高校に行くため、田舎から上京してきました。

中学の同級生は全部で8人。

みんな仲良しでした。

さてこう聞くと、この主人公は、心優しくほんわかした女の子かなと思うのではないでしょうか?

だいたい合ってるのですが、本人的にはしっかり者の神童だと思っています。

一番特徴的なのは、勉強を得意としており、上京理由が「官僚になるため」ということです。入学直後、ホームルームの自己紹介でそれを言った彼女ですが、その理由を聞かれると、

「人の上に立つべき人間だからです」

と答え、スタートに失敗します。

本人的には、T大に行き、法学部を首席で卒業し、総務省に入り過疎対策、定年後には地元に戻り市長――というように、がっちり未来設計を決めており、官僚というのはその一歩なのでした。

この未来設計からもわかるかもしれませんが、地元愛あふれる優しい子なのです。

純粋でまっすぐであるがゆえに、彼女は都会に来るなり、割り切れない様々な問題に直面します。そんな彼女の前に現れたのが志摩聡介でした。

2・ガールとボーイ

志摩聡介は美津未と同じクラスの男子で、もう一人の主人公と言える人物です。

長身のイケメンで、軽やかで人当たりもよいナイスガイ。それでいて、周囲の空気には簡単に迎合せず、自分の考えを持っています。まさにパーフェクトな彼に、クラスの女子たちもメロメロ。

一方、1学年8人の中で育った美津未には、いわゆるスクールカーストのような複雑な人間関係は想像すらできず、クラスメートが言ってくることも悪意からか善意からかも、いまいちわかりません。

そんな美津未と、正反対と言えるのが聡介。

距離感の取り方が抜群にうまく、人間関係のあれこれをスマートに解決。
彼を狙って近づく女子もいますが、上手くかわしていきます。逆に言えば、彼はあまり踏み込まれたがっていないのです。

彼が、時折見せる影にはある理由があるのですが……

それは後々明かされます。

人との距離感を調整するのが上手いということは、それだけ人間関係で苦労してきたということかもしれません。

要領良く生きている人は、嫉妬されがちですが、周りが思うほど楽なことではない。聡介を見ているとそれを感じます。

人間との関わりがシンプルで素直な美津未と居ると、聡介も居心地が良さそうです。

3・江頭さんと向井さん

ところで「 #むかいの喋り方 (むかしゃべ)というラジオ番組はご存じでしょうか。

中部地方をカバーするCBCラジオの番組なので、他の地域の方には馴染みがあまりないかもしれませんが、ラジオ好きから強く支持されている番組です。(自分はradikoプレミアムのエリアフリーで聴いています)

僕が『スキップとローファー』を知ったのは、この番組でパーソナリティであるパンサーの向井さんが紹介されていたからです。

中でも、江頭ミカというキャラとの共感を語られていました。

ところで向井さんは、反省ノート(または黒い手帳)をつけることで有名であり、嫌な目にあったりするとそれを書き留めているそうです。

ミカも、「心の許さじノート」を持っています。

これにまつわる場面が素晴らしいのですが、それを紹介すると「むかしゃべ」のただの引き写しになってしまうので、ここでは語りませんが、ぜひ読んで欲しいエピソードです。

そんなミカは、イケメンの聡介のことが気になるのですが、スクールカーストや女子の中の人間関係を気にしており、要領よく立ち回ろうとします。

しかし、それは自信の無さの裏返しでもあります。

彼女は美津未のまっすぐさと、聡介の何気ない言葉によって少しずつ変わっていきます。ミカは決して主人公ではありませんが、そんな彼女だからこそ、誰より共感できるのではないでしょうか。

おわりに

空気読みが必要とされる現代社会。誰しもがそれに頭を悩ませ、日々を悶々と過ごしているかと思います。

だからこそ『スキップとローファー』を読むと、きっと共感できるキャラクターがいると思います。気づくと、どんなキャラにも共感している自分が見つかるでしょう。

まっすぐ生きている人も、要領よく見える人も、要領よく立ち回ろうとして上手く行っていない人も、みんな悩みながら進んでいるんだと思いを馳せることで、少しだけ世界が優しく見えたり、人に優しくできるようになるかもしれません。

ちなみに、僕が一番共感できるのは、空気が読めない演劇部の先輩です。


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