イケメンなら人生イージーモードなんて誰が言った!?『青春エレジーズ』
※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)
【レビュアー/兎来栄寿】
ああ、青春の辛苦と眩しさがここにある……!
一巻はひたすら声を出して笑っていながら読んでいた本作。しかし、二巻を読むとコメディ要素だけでない、永井三郎先生らしいシリアスで繊細なドラマの妙味が強く出てきました。
本作は、残念な美形たちを高い画力で描くコメディ。主人公の山田大介はあるコンプレックスを抱えており、「転校デビュー」すべくそこそこのイケメンとして新たな学校での生活をスタートさせます。しかし、そこで出会った超美形「薔薇王子」(勝手に命名)の導きによって、学校一イケてない部活に入部。そこには、極めてイケメンでありながらも極めて残念な面子が集っていました。
イカレたメンバーを紹介するぜ!
性格が歪みに歪んだ眼鏡男子のハヤト。
黙っていればSo Cool...なイケメン・月影ハヤトありえない程卑屈で、毒舌で、上から目線で、笑顔が怖い
なぜか常に鉄仮面を被っているシュン。
『ストラヴァガンツァ』といい、最近鉄仮面ブーム来てます?鉄仮面の中は長髪黒髪の男前・風祭シュン(ただし表情筋はダイヤのように硬い)
女子より可愛い女装男子のレイ。
長年スカートを履き続けている、男の娘とも違う女装男子・花園レイ
そして、宇宙と電波で交信する薔薇王子ことスバル。
そこそこイケメンの大介もそのオーラに圧倒される超絶美形・星野スバル。イケメンは何を着てもイケメンだし、うまい棒をシャクシャクしていてもイケメン。突き抜けて行くスバルの奇行・奇言。どこまで着いていけますか?
逸脱した個性、その裏に隠されたもの
ただ彼らとて、残念になりたくて残念になった訳ではありません。それぞれがトラウマを抱え、世界の不条理が彼らを残念にしてしまったことが仄めかされます。
私は、幼少の頃から『BANANA FISH』のアッシュや『キャプテン翼』のシェスターなど美少年たちに強い憧憬を抱いていました。こんな風に美しく生まれていれば、このくすんだ人生ももっと鮮やかなものになったのでは、と。そんな風に考えては溜息を漏らす日々。でも、違ったんです。
イケメンに生まれれば人生がイージーモードになるとは限らないのですね。2巻で描かれるのは、女装男子であるレイが女装するようになった理由となる辛い過去。それはむしろ、女の子のように綺麗な顔立ちであるからこそ降り掛かってきた不可避の運命でした。
人には誰しも、その人なりの悩みがある。外から見てどんなに豊かで幸せそうに見えても、そこには外からでは決して見えないものがある。どんな安心や快楽を得たとしても、それは永続するものではない。いずれ不安になり、不満を覚えるようになる。苦悩は尽きることはないものだと理解して、苦悩と添い遂げるように生きるしかありません。
しかし、それでも確かに彼らの間には爽やかな友情がありました。不器用な彼らが見せる温かい思い遣り。声を出して笑える部分との落差に、不覚にもホロリとしました。人生がいかに辛くとも、そのために生きる価値のあるものだという一つの証左です。
ああ、これは確かに青春の哀しき、そして愛しき唄なのです。
男性にも読んで欲しい極上のBL『スメルズライクグリーンスピリット』。併せてお薦めです。繊細で、痛々しく、読み終えた後の心の焼け付きが狂おしくも愛しい。永井三郎先生の持ち味と力量がはっきりと解る作品で、これがあったからこそ『青春エレジーズ』の今後もますます楽しみです。