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謀略渦巻く王妃の座争奪戦!宮廷を生き抜く主人公に、女性が権力に立ち向かうための生き方を考える『コールドゲーム』

【レビュアー/和久井香菜子

身体能力で男性に敵わないことが、ときにめちゃくちゃ悔しいです。

卑近なところで言うと、テニスやってたときは、なんとか奴らを負かしたいと思っていたものです。で、実際スペインにテニス留学して若干大坂なおみ選手みたいにパワーで彼らを圧倒したときはむちゃくちゃ爽快でした。

もうちょっと本質的なことで言うと、社会が荒れると、弱者から虐げられていきます。身の危険が迫ったときには、心の底から力がほしいと思うでしょう。

少女漫画では時折、肉体的に男性を打ち負かす主人公がいたりします。『天は赤い河のほとり』のユーリとか、『輝夜姫』の晶とかマギーですね。

こうした作品を読んで、女はでっかい溜飲を下げるのだと思われます。で、そういう女子を軽ーく打ち負かす男性が出てきたら、それは本命です。そんな並大抵じゃない相手なら仕方ない! 『ベルンシュタイン』のオルギールとかさ。

『コールドゲーム』は、中世ヨーロッパ風の王国が舞台です。B国の末っ子王女・アルナは、E国の若い国王からの「王妃として迎えたい」という申し出をうけます。

この政略結婚を断れる状況じゃありません。アルナは侍女とE国へ向かってみると……なんと王妃がほかに5人もいました。えっ……?

10人のはずの宇宙飛行士試験に11人いた! じゃないけど、なぜ1人のはずの王妃が6人も……?

という謎で話が始まりまして、そこから権謀術数(けんぼうじゅっすう)渦巻く宮廷のあれこれが開示されていきます。

アルナは身代わりのカミラを仕立てて、自分は従者としてE国へ乗り込んでいます。王女としての貫禄がないカミラと、神々しく美しいアルナの入れ替わりがバレないかという冷や冷やも物語のスパイスです。

この権謀術数がとんでもなくて、命に関わるくらいのものです。この人間模様と心理戦が見どころ

どこか冷めていたアルナだけど、人の欲望と黒い闇に飲まれて、どんどん人間らしい感情が育まれていきます。

それに加えて頭のよい子なんですよアルナは。

どんな窮地に立たされても、その頭脳で切り抜けていきます。そういうところにめちゃくちゃスカッとします。ただ、失敗すれば命がない。彼女の失策がとんでもない事態を招くこともあり、むちゃくちゃスリリングです。私がうっかり王妃候補になって送り込まれたら、うっかり悪人に騙されて3日で殺されるだろうなあ。

自国では剣術の修練に勤しんでいたアルナは、腕に覚えがあると思っていました。でもガチで危機に陥ってみると、なんの役にも立たない。敵に襲われて、2人はなんとかできるけど4人は無理、みたいな適度な超人っぷりがリアルでいい。

私がテニスで男性と張り合わなくなったのは、私がテニスに対する向上心をなくしてからでした。

上手くなりたいと自分を律して取り組まなくなったら、割とどうでもよくなった。プロ選手の取材を始めたことも理由のひとつだったかもしれません。圧倒的な差があるなかで、彼らと張り合うよりも手のひらで遊ばせてもらう方が有意義なんですもの。実際、ミックスダブルスなんか組むと、痺れるほど頼りになって楽に勝てるんですよ、お姫さま気分でした。

アルナはどうなのでしょうね。男勝りの戦闘力を手に入れるのか、それともどこかで折り合いをつけるのでしょうか。和泉かねよし先生の観察眼に期待です。

前作の『女王の花』では従者と姫の信頼と愛情の物語だったけど、『コールドゲーム』も相手は違えど、厚い信頼と友情で仕上がっている物語です。『女王の花』が好きならこっちも絶対外しません。

今作の主人公は、誰と信頼関係を結び、心を繋ぐのでしょうか。それはどんな相手なのか。まあそれは作品を読んでのお楽しみということで。

まあとにかくひとつ言えるのは、こんなふうに心で固く結ばれるパートナーがいたらいいよねホント!!


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