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「バカ」が社会から抹消される恐怖!しかし進化の可能性は「バカ」にこそある『フールズ』

みなさんは人から「バカ」って言われたことはありますか?

子供の頃ならともかく、大人になった今、面と向かって言われたらけっこう傷つきます。まあ、女の子から「もう、バカ(ハート)」とか言われるなら、むしろ喜ばしいところですが。

けれどこの漫画において、世間から「バカ」の認定をされることは死を意味します。黒服のネゴシエーターたちが現れて銃を突きつけられ、「ソレ」を消すように指示されます。

「ソレ」ってなに?

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『フールズ』(皿池篤志/集英社)1巻より引用

全長十数メートルの前衛的なオブジェのような物体。(形状性質は様々)ソレが「バカ」です。

ソレを生み出したのはお前だから消せと言われるわけです。

けれど自覚はない。消せるわけもない。そうこうしているうちに「交渉決裂」と判断され「処分」されます。

なんとも理不尽な話です。

「バカ=常識はずれ」を排除する大衆の危うさ

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『フールズ』(皿池篤志/集英社)1巻より引用

本作は、謎の物体「バカ」を生み出す力を持ってしまった主人公たちと、彼らを「バカ」を消すために狩り出そうとする政府機関との戦いを描いた物語です。

今どきの「異能バトルもの」ではあるのですが、異能になぜ「バカ」と名付けているのか?

馬鹿とは(大辞林)
(1)知能の働きがにぶい・こと(さま)。そのような人をもいう。
(2)道理・常識からはずれていること。常軌を逸していること。また,そのさま。「そんな―な話はない」「―を言うな」
(3)程度が並はずれているさま。度はずれているさま。
(4)役に立たないさま。機能を果たさないさま。「スイッチが―になる」
(5)特定の物事に熱中するあまり,社会常識などに欠けること。「学者―」「専門―」「親―」
(6)名詞・形容動詞・形容詞の上に付いて,接頭語的に用い,度はずれているさまの意を表す。「―ていねい」「―正直」「―騒ぎ」「―笑い」「―でかい」

恐らく、この物語における政府機関の「バカ」の定義は「(2)道理・常識からはずれていること。」になると思います。

常識から外れているから迷惑?

だから処分されても仕方ない??

ここに本作が警告する「大衆」の危うさが描かれているように思えます。自分が理解できないものを「バカ」らしいと決めつけて排除する社会。けれど、その基準は本当に正しいのでしょうか。

「バカ=並外れ」の想像力で世界を変えられる!

進化とは
全ての生物が
かつて持っていた
想像力という名の
力である

これは、本作の冒頭に記された、私の大好きな言葉です。

私たちは空を飛ぶこともできないし、水の上を走ることもできません。しかし技術を発展させ、飛行機や船を作ることでそれらを達成させてきました。その達成のための第一歩は「想像する事」だったと思います。

「今までになかった考え」をはじめに口にした人の多くは、周りに理解されなかったり、時には批判の対象になったりもしましたが、その考えを貫いたからこそ進歩があるのです。

「漫画」だって、おなじく「想像力」が生み出すものですよね?

どんなに荒唐無稽で突拍子がない物語であっても、そこに信念があれば人の胸を打つことができる。

つまり、本作における「バカ」の定義は「(3)程度が並はずれているさま。度はずれているさま。」のほう。

主人公たちは、自身の想像力が強すぎて想像が顕在化してしまったと解釈できます。そしてそれは、本来すべての生物が持っていた進化の力なのです!

想像力(妄想)で世界を変えられる!そんな可能性を信じてみたくなる漫画です。

WRITTEN by 新里 裕人
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