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経験が増え、感情が揺れにくくなった人は「初めて」の少年の真っ直ぐな思いに震える『目黒さんは初めてじゃない』

【レビュアー/栗俣力也

嫉妬の気持ちからの行動を「醜いもの」として描く作品が多いように思う。
 
好きという気持ちの裏返しで、大好きな相手も、そして自分自身もも傷つけてしまう。そしてそれは今に留まらず、好きになった人の過去に対しても働きかけ最悪の結果をもたらしたりする。
 
人間の感情、特に好きという気持ちは自分自身ですらコントロールが効かなくなるから厄介だ。

そんな嫉妬の気持ちを抱いてしまった時に読んで欲しい作品が、今回紹介したい『目黒さんは初めてじゃない』だ。

「初めて」と「経験者」のコントラスト

 本作は、初めてじゃない女の子・目黒さんと初めてだらけの男子・古賀の恋の話である本作。

目黒さんは「この人じゃなきゃダメ」という気持ちがわからない。

告白されれば付き合いすぐ別れてしまう、そんな事を今まで繰り返していた。周りからはその事で酷く言われるが、それは事実であり、間違いはないので反論する言葉もない毎日を送る目黒さん。

そんな目黒さんの日々は古賀の告白から少し変化をしていく。古賀にとって「初めてだらけ」だからこその恋心が、経験の多い目黒さんの心に響いていく。そんな彼らの毎日は、読者の心にもドキドキと気が付きを与えてくれる。 

経験が多い彼女に対して今までの彼氏たちが思ってきたことは想像に難くない。おそらくそれは、昔の彼氏への嫉妬だ。その思いをきっかけに、きっと傷つき、そして傷つけ離れていったのだろう。目黒さんは自分から彼氏に距離を置いた事はなく、必ず彼氏側が別れを切り出しているのだ。

そんな彼女に古賀が抱いた思いは、彼女は誰よりも人を傷つけるのを怖がっていて、その分たくさん自分が傷ついてきた人、だからこそ自分が彼女を守りたいという気持ちだった。 

これまでの事実はなくならないし、「それを含めてお前が好きだ」なんて少女漫画のヒーローみたいな言葉でもない。

「好きになった相手を真っ直ぐ見て導き出した寄り添う気持ち」は、恋人に言われて一番嬉しい言葉のひとつなんじゃないかと思う。

この作品を読んだ方には、経験が増え、感情が揺れにくくなった自分を目黒さんに重ねて、古賀の行動や想いに心を癒される人も多いのではないだろうか?

決して派手な展開は無いし、わかりやすい感情の誘導もない。

フラットで、小さな細波が感じられるような優しい漫画だからこそ、伝えられる大切なものがある。

少し気持ちが疲れたな、なんて時にぜひ読んで欲しい。

この作品はそんな漫画だ。