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徹底解説|東南アジアのEコマースSaaS

前回の記事、徹底解説|東南アジアのデジタル決済市場が好評だったので、引き続き、東南アジアテック専門の中国語メディア「7点5度」の1万字レポートを翻訳していこうと思います。今回は、Eコマースプラットフォーム、中でもその立役者であるSaaSがテーマです。「SaaSって何?」というレベルの方(僕もその1人です)も少なくないかと思いますが、この記事をきっかけに、独特の発展を遂げつつある東南アジアのEコマース市場への理解が少しでも進めばうれしいです。

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新型コロナの世界的な流行により、消費がオフラインからオンラインへとシフトする中、Eコマース(EC)が再び脚光を浴びており、それに応じてEコマースSaaSは急成長期に突入した。世界的なEコマースSaaS企業であるShopifyの時価総額は、2021年11月に2220億ドルのピークに達し、現在でも700億ドルを超えている。中国のEコマースSaaS企業である有賛(Youzan)と微盟(Weimob)も、IPO以来時価総額が数倍に成長している。 一方、同地域におけるEコマースSaaS業界はまだ黎明期にある。しかし、東南アジアでのEコマースの急成長に伴い、現地発EコマースSaaSには大きなポテンシャルがある。

東南アジアのEコマースSaaS市場の概要

SaaS(Software as a service)とは、サービスとしてのソフトフェアで、ソフトウェア提供モデルの一つだ。 この提供モデルでは、ソフトウェアは従来のインストール手順を踏まずにウェブブラウザからアクセスが可能で、ソフトウェア及び関連データはクラウドベースのサービスで集中的に委託管理される。 一般的なSaaSアプリには、会計システム、共同ソフトウェア、顧客関係管理、経営情報システム、企業資源計画、請求書発行システム、人事管理、コンテンツ管理、サービスデスク管理などがあります。

また、主にEコマース事業者に対して、ショップマネジメント(ネットショップ構築、受注管理、在庫管理、ショップ装飾など)、カスタマーサービス(販売前·後のコンサルティング、メンバーシップ管理など)、マーケティング·プロモーション(広告、サイト外のトラフィック生成など)、データ活用(ショップデータ、データ分析など)といった各種ソフトウェアサービスをインターネット経由で提供するのがEコマースSaaS事業者だ。

中国や欧米の市場と比較すると、東南アジアのEコマース向けSaaSの発展はまだ比較的早い段階にある。東南アジアのEコマース向けSaaS企業の多くは、名称に関しても、SaaSというラベルを直接使用せず、総合的にEコマースSaaSサービスを提供する企業の中にはecommerce solution provider、ecommerce enabler、ecommerce services platform、digital platform、そしてe-commerce technology firmと名乗ることも多い。提供するサービスとして、自作ウェブサイト、受注管理、マルチチャネル統合、デジタルマーケティング、倉庫·物流管理などのEコマースSaaSサービスが挙げられる。しかし、ライブコマースやデジタルマーケティングに特化した企業など、非常にニッチなEコマースSaaSサービスを提供している企業もある。また、東南アジアのEコマースSaaSは、現地のEコマース代理店やテック企業内に存在しEコマースSaaSのビジネスラインとして単独に立ち上げられているものもある。

△東南アジアのEコマースSaaS企業(抜粋)

東南アジアのEコマースSaaSは、中国や欧米の市場と比較すると、プレイヤー数、企業の成長段階、サービス内容の精緻化の度合いにおいて、まだまだ大きな隔たりがある。これは、東南アジアのEコマースの発展の歴史と密接に関係している。結局のところ、EコマースSaaSの本質は、Eコマース業界にサービスを提供することだ。東南アジアにおけるEコマースプレーヤーの誕生と成長という観点から、東南アジアにおけるEコマースSaaSの発展段階は大きく3つに分けられる。

黎明期(2009年~2015年)

東南アジアの地場Eコマース事業者の多くはこの時期に誕生した。例えば、東南アジアの2大ECプラットフォームであるLazadaとShopeeはそれぞれ2012年と2015年に誕生し、インドネシアのECプラットフォームTokopedia(後にGojekと合併、現在はGoTo)とBukalapakはそれぞれ2009年と2011年に、ベトナムのECプレイヤーTikiとSendoは、それぞれ2010年と2012年に創業した。

この時期、現地の販売業者の多くは従来のオフライン取引や小売りの経験しかなく、プラットフォームECのオンライン操作にまだ慣れてなかった。Eコマースプラットフォームに初めて触れた後、ほとんどのEコマースの売り手はバックオフィスの基本的なオペレーションに関心を寄せていた。Eコマース市場の初期段階において、EコマースSaaSの必要性はEコマース販売者にとって明確ではなかった。しかし、シンガポールに拠点を置くEコマースSaaS企業であるAnchantoは、2011年に創業し、独自のSaaS商品を通じて、ブランド、小売業者、オンライン販売業者、倉庫会社にサービスを提供し始めた。また、SCI Ecommerce、aCommerce、SIRCLOといった東南アジアのEコマース代理店がこの時期に誕生し、後発SaaSサービスの下地となった。そうした中、SIRCLOは2013年にブランドのウェブショップ開設を支援するSaaSサービス「SIRCLO Store」を始動させた。

アドベンチャー期(2015年~2018年)

東南アジアの初期のEコマース企業の多くは、この時期に市場での確固たる地位を築いた。例えば、Tokopedia(現GoTo)やBukalapakは、いずれもスタートアップからユニコーン企業へと変貌していった。LazadaとShopeeはそれぞれより強固な「後ろ盾」を得た。前者はアリババに完全買収され、後者の親会社は米国で上場を果たした。

同時に、Eコマースのプレーヤーも続々と誕生し、Eコマースサービスに対する需要もより細分化してきた。ショップマネジメントからデータ分析サービス、さらにはパフォーマンスマーケティングサービスやその他SaaS型Eコマースツールにいたるまで、より大きな需要が出現した。 多くのEコマース販売者にとって、複数のEコマースプラットフォームを導入することは、ビジネスをスムーズに成長させるために不可欠であり、複数のプラットフォームをまとめることができるSaaSツールは特に人気を博した。折しも、東南アジアの物流企業J&TもEコマース向けSaaS市場に注目しており、2017年にEC代理店Jet Commerceを設立、その後、マルチプラットフォーム連携、商品管理、受注管理といったサービスを提供するSaaS型EC小売管理システム「UPFOS」を発表した。

また、Econsultancyのデータによると、2016年、40%近くの企業が最も要望したツールの一つが自動マーケティングツールだった。自動マーケティングツールでコストを合理化し、売上を倍増させることができるとこれらの企業は考えた。2017年設立で、EC代理運営やSaaSを手がけるシンガポール企業Intrepid Groupは、ECプラットフォーム向けに口座管理、デジタルマーケティング、マーケティングコンサルティング、データ分析などのサービスを提供している。また、シンガポールのEmatic Solutionsは、メールマーケティングオートメーションサービスを提供している。

成長期(2019年~)

Google、Temasek、Bainが近年共同で発表した東南アジアネット経済レポートによると、2019年の東南アジアのEコマースGMVは約380億米ドル、2021年は約1200億米ドルで、年率60%以上の成長を実現し、2025年には、同地域のEC市場規模は2300億米ドルを突破すると予想されている。

より重要なのは、東南アジアの多くの中小企業は近年、ビジネスのデジタル変革を加速させており、Eコマース向けSaaSツールの力を借りてオフラインのビジネスをオンラインに移行させようとしているということだ。インドネシア通信省の2019年のデータでは、インドネシアには中小企業が約6,300万社ある一方、在庫管理や原材料の調達にオンラインプラットフォームを利用する中小企業は400万社以下にとどまっている。コロナ禍を経た2021年、東南アジアネット経済レポートは、今後5年で、82%の店が売上の半分以上をオンラインで実現するだろうと予想し、また84%の店が調達の半分以上をオンラインで展開すると予想した。また、87%の店がデジタルマーケティングツールの利用を増やす可能性があるとのことだ。中小企業にとって、ゼロイチベースでオフラインビジネスをオンラインに移行することも重要な関心ごととなっている。

様々なニーズが生まれる中、東南アジアのEコマースSaaS企業は、飛躍に向けた黄金期を迎えつつある。東南アジアEコマースSaaSの初期のプレーヤーは段々と成熟の段階に入ってきており、Eコマース代理店のSCI EcommerceやaCommerceはすでに業務を複数市場に拡大し、より多くのSaaSツールを発表している。また、Desty、Upmesh、Epsilo、Etaily、CREA、Cococart、OpaperなどのEC SaaS分野の新たな現地プレーヤーがこの時期に新規参入し、関連サービスを始めた。

東南アジアにおけるEコマースSaaS産業の現状

東南アジアのEコマースSaaS産業は、中国や欧米の都市に比べると発展途上ではあるが、産業チェーンの発展により、今後さらなる成長が期待できる。

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川上:インフラサービス事業者

EC向けSaaSの産業チェーンの川上には、クラウドサービス事業者、通信事業者、システム開発事業者があり、EC向けSaaSの開発に必要なクラウドデータ処理、インターネットアクセス、コンピュータシステムなどのインフラサービスを提供している。

中でも、クラウドコンピューティング技術は、EC向けSaaS産業の発展を牽引する最も重要な技術だ。クラウドコンピューティングが発展したおかげで、ユーザーはどのクラウドエンドポイントデバイスを使っても、ネットワークにアクセスしてソフトウェアを使用することができる。グローバルビジネス分析企業Adroit Market Research社のレポートは、中小企業によるクラウドコンピューティングの需要増加により、東南アジアのクラウドコンピューティング市場は、2025年までに約303億ドルに達すると予想する。

東南アジアの各国政府は、クラウド基盤を強化している。例えば、マレーシア政府はクラウドファースト戦略を打ち出し、2022年末までにパブリックデータの80%を混合クラウドシステムに移行する計画だ。

一方、グローバルなクラウドベンダーが東南アジア市場に集結し、現地のクラウドインフラのより一層の整備を促すとともに、SaaSプレーヤーに対してより多くの選択肢を提供するようになってきた。2021年4月中旬、Tencent Cloud社はインドネシアに初のデータセンターを開設し、海外展開をさらに加速させると発表した。2022年4月にはAliCloudがタイで正式に開業した。

また、東南アジアではインターネットの通信速度が大幅に向上しており、EコマースSaaSの円滑な運用が可能となっている。世界的な通信事業者分析企業であるOpenSignalは2021年のレポートで、シンガポールがインターネットの平均ダウンロード速度で世界第9位になり、2019年第1四半期から2021年第4四半期にかけて、タイのインターネットの平均ダウンロード速度が5.7Mbpsから17.4Mbpsと3倍以上速くなり、インドネシアの同速度も6.9Mbpsから14.4Mbsとほぼ倍の速さになったと発表した。

川中:EコマースSaaSサービス事業者

EコマースSaaS産業チェーンの川中は、EコマースSaaSのディベロッパーとサプライヤーが中心となっている。EコマースSaaSは、Eコマース事業を全方位的展開に資するもので、主にEコマースプラットフォーム管理、オンライン·オフラインのトラフィックマイニング、加盟店のプロモーション及び顧客獲得の3つの機能を提供する。代表的な適用シーンとして、マーケティング管理、店舗管理、倉庫·物流、オムニチャネルなどが挙げられる。

サービスの観点からすると、EコマースSaaSの中流サービスプロバイダーは、包括的なモジュールサービスプロバイダーと単一モジュールサービスプロバイダーに分けられる。 東南アジアのEコマースSaaSサービスプロバイダーで統合モジュールに力を入れているのはSIRCLOで、社内で構築したSaaSサービス部門「SIRCLO Store」は、自社の統合管理ダッシュボード(SIRCLO Connexi)とWhatsApp Business API(SIRCLO Chat)の組み合わせによりブランドのオンライン販売をサポートできるようになった。また、単一のモジュールに特化したEC SaaSプロバイダーも多数存在する。ウェブ構築やオンラインショップ構築を行うDesty、ライブストリーミングツールを提供するUpmeshやデジタルチャネルマーケティングサービスを提供するCREAがその好例だ。

また、EC SaaSの川中事業者は、ユーザーの視点から、集中型ECプラットフォーム向けの事業者と非集中型ECプラットフォーム向けの事業者に分類できる。集中型ECプラットフォームの場合、EコマースSaaSサービスプロバイダーは、主にEコマースERPシステムなど、プラットフォームのエコシステム内で、商品管理、受注·配送、画像管理、データ収集、データ統計、在庫管理などの管理サービスをワンストップで支援するツールを提供している。また、集中型ECプラットフォームのEC SaaSサービスプロバイダーは、販売者がクロスプラットフォーム統合を実現し、中小規模のECビジネスを代替できるバックエンドシステムを提供する。独立系サイトなど非集中型のECプラットフォームでは、EC SaaSサービスプロバイダーが主に特別なセグメンテーションモジュールを提供することで、販売者が購入者情報を完全に把握したり、プライベートドメインのトラフィックを管理したりできるようにしている。

東南アジア市場では、Shopee、Lazada、Tokopedia、Bukalapakが集中型Eコマースプラットフォームの代表的なプレーヤーとして知られ、彼らがJet Commerce、Shopmatic、SIRCLOなどの東南アジアのEコマース代理運営企業及びEコマースSaaS企業が成長する機会を与えている。だが、独立系サイトやDTCブランドはまだ相対的に発展初期の段階にあり、このような分散型ECプラットフォームは数自体が比較的少なく、それに対応するSaaSプレーヤーも少ない。Web構築やネットショップ構築を行うDesty、Opaper、Cococartなどもこのカテゴリーの代表的なプレーヤーといえるかもしれない。

川下:ECプラットフォームとその他EC企業

EコマースSaaS産業チェーンの川下は、主にEコマースプラットフォームと、独立系サイトやソーシャルコマース等その他EC 企業で構成される。東南アジアでは、デジタル変革を進めている中小企業も、EコマースSaaSチェーン川下におけるサービス対象となる。

ShopeeとLazadaは東南アジアのトップEコマース企業として確固たる地位を築いており、インドネシアのユニコーンであるTopedia(Gojekと合併し、現在はGoTo)、Bukalapakはすでに上場企業となった。Sea Groupの2021年第4四半期決算で、Shopeeの2021年の総注文数は61億件、GMVは625億米ドルに達し、さらにShopeeは世界のショッピングカテゴリで総ダウンロード数1位のアプリとなった。またLazadaの最新データによると、同アプリの年間アクティブ消費者数(AAC)は過去18ヶ月で80%増の1億3000万人、月間アクティブユーザー数(MAU)は過去18ヶ月で70%以上増となる1億5900万人に達した。2022年4月11日、TokopediaとGojekが合併したGoTo Groupが上場し、時価総額が300億ドル超となった。これに対し、Sea Groupの時価総額は現在600億ドル近くで、GoToの時価総額はSea Groupのおよそ半分となっている。

さらに、ベトナムローカルのECプラットフォームTikiやSendo、韓国のECプラットフォームQoo10、Amazon Singapore、中国のDNAを持つ東南アジアのECプラットフォームJD.IDやJD.THも成長し、シェアを獲得している。2021年10月、Tikiは第二回のシリーズEラウンドで1億3600万米ドルの資金を調達するなど、成長がさらに加速している。

東南アジアでは独立系サイトECは多くないが、独立系サイトやDTC、ソーシャル系ECの成長余地も十分にある。なぜなら、東南アジアのプラットフォームEコマースが一定レベルまで成長すると、企業のブランド認知度の向上やプラットフォームトラフィックのオーナスが徐々になくなることと相まって、プラットフォーム内での競争が激化し、販売業者は独立サイトに目を向け、独自のブランドを構築し、プライベートドメインのトラフィックを構築し、消費者に直接アプローチすることで取引コストを削減するようになるからだ。独立系サイトのアドバンテージの1つは、それがプライベートドメインであるため、Facebook、Google、Instagram、YouTubeなどのソーシャルメディアからのトラフィックが主となることだ。これらのメディアプラットフォームが東南アジアで高い普及率を誇っていることも重要なポイントだ。つまり、東南アジアで独立したサイトを作るということは、トラフィック獲得という面で一定のメリットがあり、成長の見込みがあるのだ。しかし同時に、独立系サイトの課題として、プラットフォームECに比べてトラフィック獲得のコストが高いことが挙げられる。独立系EC企業にとって、トラフィック獲得のためにSaaSプラットフォームは最優先で検討すべきものだ。

さらに、近年では、他のタイプの分散型Eコマースプレーヤーも登場している。東南アジアネット経済報告2021によると、東南アジア全域に存在する「インフォーマルEコマース」というカテゴリーがある。タイやベトナムで特に流行っているタイプだ。このタイプのEコマースは、SNSやメッセージアプリ(FacebookやWhatsAppなど)などのアプリを起点とするもので、小売のプラットフォーム上で取引が記録されることはない。世界的な API 企業である API2Cart のレポートによると、東南アジアのインターネットユーザーの 80% がSNSを利用して販売業者に接触し、約50%がネット上でショッピング体験を共有している。商品の購入を希望する消費者がFacebookで小売業者に連絡し、購入に同意した上で、P2Pで支払いや配送の手配を行うというのが大まかな流れだ。この種のEコマース·プレーヤーの間で、注文管理、代金回収、発送など、潜在的な課題に対応するきめ細かいSaaSモジュールのニーズが高まっている。7点5度とのインタビューで、Destyの共同創設者である王維氏は、「インドネシアのEコマースのプラットフォームは非常に分散化していて、買い手と売り手の双方がそれぞれ好むプラットフォームがある。同時に、大多数の消費者がFacebook、Instagram、WhatsAppなどのソーシャルチャネルを利用して、販売業社とのコミュニケーションや取引を行っている。最適化の余地がたくさんあるのです。」と語った。

また、同報告によると、インドネシアとマレーシアの販売業社による「オンライン取引」というワードの検索回数は、2021年に2017年比でそれぞれ18倍、13倍に増加したとのことだ。つまり、伝統的な取引を主とする中小企業にとっても、ビジネスをオフラインからオンラインに移行することが急務となっており、この種のECプレーヤーはECのSaaSツールによる補助を必要としているのだ。例えば、オンラインショップをゼロイチで構築し、ソーシャルメディア上の注文を統合させ、オンラインで代金を回収し、注文を発送するといった場面が想定される。

東南アジアEコマースSaaSの投資分析

Grand Viewre Search社のレポートは、2019年現在、世界のEコマースソフトウェア市場は62億ドルで、2020年から2027年にかけて16.3%の年平均成長率(CAGR)で成長していくと予想する。欧米や中国では、Shopify、BigCommerce、有賛(Youzan)と微盟(Weimob)などのEコマースSaaS企業が上場し、店小秘(Dianxiaomi)は今年2月にシリーズCラウンドにおいて1億米ドルの資金調達を完了した。一方、東南アジアのEコマースSaaS投資市場はまだ黎明期にある。Eコマース事業やEコマースSaaSの領域でまだ大手は誕生してないが、近年は現地企業も資金を獲得するようになった。

△EC SaaS・代理運営企業への投資(抜粋)

東南アジアにおけるEコマースSaaSの資金調達の現状を見ると、SaaS企業の多くはまだシードやシリーズAの段階にあり、規模も小さくい。したがって、EコマースSaaSは巨大な1社で完結しておらず、また競争も激しくないので、各プレイヤーが成長する余地はまだ十分にある。

東南アジアのEコマースSaaSの資金調達の多くは、ここ2年間に行われており、これは東南アジアEコマースの急成長と表裏一体の関係だ。East Ventures、Jungle Ventures、TNB AURA、Wavemaker Partners、MDI、Monk's Hill Ventures、BEENEXT、Sequoia CapitalやY Combinator など比較的有名な投資家はいずれも東南アジアのEコマースSaaS企業に投資している。一方、一般にはあまり知られていない海外の投資家も多く関わっている。

VC投資という観点からすると、東南アジアのEコマースSaaSはEコマースと比べて活発さで遠く及ばず、東南アジアのローカルEコマースSaaS投資の見通しを懸念する投資家がいてもおかしくはない。EC SaaSの収益=有料加盟店数×ARPU(1ユーザーあたりの平均収入)であり、有料加盟店数=総加盟店数×EC SaaS普及率×有料転換率、ARPU=有料モジュール数×モジュール単価だ。現段階で、東南アジアのEC市場において、販売業社の間でEC SaaSの認知度がまだ低く、またお金を払う意欲も強くないので、マーケットエデュケーションの期間がまだ必要だ。同時に、EコマースSaaS製品の価格設定も低めとなっている。

ただし、東南アジアのEコマースSaaSの投資見通しについては、引き続き強気の見方をする投資家もいる。東南アジアのEコマースSaaSは、現状では小規模な企業が多いが、東南アジアのEコマースの急成長に伴い、東南アジアのEコマースSaaSも将来的に大きな成長の可能性を秘めている。2019年5月現在、シンガポールを除く東南アジア6カ国のEC普及率は5%以下で、平均で2.5%に過ぎず、最大のEC市場であるインドネシアでは4.26%と比較的高い普及率となっている。イギリス(19.3%)や中国(20.7%)といった成熟したEC市場と比べて、潜在力が大きいといえそうだ。

Lingbo Capital Venturesのパートナー、殷明波氏は、「東南アジアのEコマースSaaSはまだ発展途上の段階にあるが、Eコマースの普及とインフラの改善に伴い、販売者層が拡大し、東南アジアのEコマースSaaSは爆発的に成長するだろう。」と指摘する。EコマースのSaaS企業をチェックする場合、殷明波氏は段階に応じた業績によって投資する価値があるかどうかを判断する。例えば、初期段階では、独自のターゲット顧客とそれに対応する製品のエントリーポイントがあり、顧客は喜んで料金を払い続け、徐々に独自の障壁を築くことができるかどうかが基準となる。そして中·後期段階では、企業の内発的·外発的なM&A能力が重要で、独自のエコシステムを構築できるかどうかがポイントになるという。

また、BAce Capitalの東南アジア投資責任者である方圓氏は、「東南アジアの販売チャネルは中国のそれよりもはるかに分散している。 東南アジアの売上の約半分は、リージョナルまたはローカルなEコマースプラットフォームや、Facebook、Instagram、WhatsApp等のSNSチャネルからもたらされている現状で、クロスプラットフォームでの運用により、販売店にとってデータ化ツールへのニーズはより切迫したものとなっている。インフラの面では、東南アジアのフルフィルメント、物流、サプライチェーンは高度に分散した現地化の状態にあり、加盟店の支払い能力も欧米や中国に比べてはるかに低く、その両方が東南アジアに現地のEコマースSaaS企業を誕生させる土壌となっている。」方圓氏は、SaaSツールが十分な数の加盟店にサービスを提供し、中小規模の販売業者に適しており、あらゆるカテゴリーの商品とチャネルにフレンドリーである企業が理想的な投資対象だと見る。
また、SaaS製品の経済モデル:LTVとCACの比率(ユーザー生涯価値 : 顧客獲得コスト)も投資判断の基準のひとつとなる。「当然、大きければいいというものではない。競争の初期段階でプロモーション投資を続けることでマーケットシェアを急速に拡大することが必要となってくる。」

方圓氏は、東南アジアのEコマースSaaS企業がさらに拡大するには、マーケットを急速に拡大させるための顧客獲得能力の向上と、その後のユーザーの定着率やデータ保存能力の向上が重要になってくると話す。「今、東南アジアの中小業者は支払い能力が弱く、多くのSaaSツールは無料で提供させる。このような状況で、ユーザーが製品モジュールを高い頻度で何度も使用するかどうかが、その後の他のマネタイズ経路に重要な意味を持つ」 一方、殷明波氏は、東南アジアにおけるEコマースSaaS企業の拡大を、市場の拡大と事業の拡大という2つの側面から見ている。市場を拡大させたいのであれば、EコマースSaaSチームのグローバルな組織力、製品サイクルのローカリゼーション、プロモーション力が必要であるし、事業の拡大を目指すのであれば、欧米や中国の製品形態を参考にしながら、対応する東南アジア版を作ることだ。また、資本に余裕があれば、後発のターゲットをいくつか買収することでイノベーションを実現できるかもしれない。こうした観点から、インドネシアのEC SaaS企業はすでにM&Aによるイノベーション戦略を進めており、SIRCLOは2021年4月にインドネシアのオンライン·マタニティプラットフォームのOramiを、そして2022年1月にはインドネシアのマイクロリテールスタートアップのWarung Pintarを買収し、マタニティブランドやマイクロリテール(ワルン)ビジネスのエコシステムに対して様々なデジタル製品·サービスの提供を進める。

Gaorong Capitalの投資パートナーである劉新華氏は、東南アジアのSaaS起業家にとってのチャンスは、東南アジアだけでなく、世界的なものであると考える。 「起業家には、グローバルな視点で、東南アジアのSaaSの可能性を再検討していただきたいと思う。」 また、劉氏はEコマースSaaSのグローバル化という点では、資金は十分に足りていると指摘する。「私たちは、本当に良い製品を作っている、グローバル化された優秀なネイティブチームを見つけたいのです。資金調達の前に、先々のことを十分に考え、顧客の検証を受け、顧客の成功を通じて顧客の継続性を高められれば、資本家への説得力はより効果的に増す。 全体として、EコマースSaaSのポテンシャルは高く、チャンスはまだ始まったばかりです。」

これからどうなる

新型コロナが迫り来る中、東南アジアでECの発展は一層加速し、より多くの販売業者が参入するようになった。同時に、ショップや受注をいかに効率的に管理するか、広告やデジタルマーケティングをいかに効果的に行うか、なども売り手側の悩みとなってきた。Eコマース展開の重要なツールとして、SaaSはあらゆる段階で売り手をサポートし、市場のペインポイントを解決しながら市場を創造することができる。これから市場に参入しようとするEコマースSaaSプレイヤーが押さえておくべきいくつかのトレンドを紹介する。

第一に、東南アジアにおけるECの急速かつ多様な発展傾向を前に、EC SaaS企業は製品のポジショニングと機能を調整し、多様な戦略を実行することになる。例えば、単一モジュールのEコマースSaaSサービスプロバイダーは、統合サービスプロバイダーへと徐々に変貌し、Eコマースビジネスのライフサイクル全体をカバーするSaaS製品·サービスを提供するようになっている。DestyやCococartのようなサイト·ウェブ構築ツールは、オンラインショップを運営する際に必要となる受注管理、在庫管理、デジタルマーケティング、料金回収、発送管理など、販売者のニーズに応えるより多くのSaaSツールを立ち上げるにようになるだろう。また、東南アジアの現地EC代理運営業者によるSaaSソリューションの展開も、新たな事業拡大の選択肢の一つとなる。例えば、SCI ecommerceやaCommerceは、いずれもEコマースの代理運営会社としてスタートしたものの、同時にSaaSツールも提供している。AI技術の駆使を誇るAdvance Intelligence Groupは、SaaS事業も展開しており、東南アジアの小売業者、流通業者、ブランドに対してSaaS型ERPやWMSを供給する。

第二に、東南アジアの伝統的な中小取引企業は、マーケットエデュケーション後のEコマースSaaSの重要なターゲットとなり、SaaSソリューションを開始した一部のローカルB2B Eコマースプラットフォームは、EコマースSaaS企業の「半」競合となった。このことは、東南アジアEコマースSaaS企業が提供するサービスの不断の改善を促進し、結果的にSaaS企業の競争力向上につながっている。東南アジア最大のB2B自動車部品プラットフォームEGGMallの共同創業者である王宇峰氏は、7点5度とのインタビューで、「2018年の初め、多くの売り手はオフライン事業をうまくやっており、オンラインで商品を売る努力は必要ないと考えていた。この2年間で、売り手は自分の商品をオンラインで販売したいと思うようになった。」 しかし、このことは売り手はオンラインで商品を販売したいが、その方法がわからないという別のペインポイントを生むことになった。多くの顧客リソースや製品データを蓄積してはいるものの、マネジメントの限界やデジタルツールの不足により、これらのデータをオンラインに移行する方法がないのだ。王氏は、現在タイでは販売業者の5~10%しかデータ管理システム(ERP)を導入していないと指摘する。これらのペインポイントに対応するため、EGGMallは買い手向けのプラットフォーム·ソリューションと売り手向けのSaaSソリューションの両方を提供している。小規模なアフターサービスステーションやディーラーがSaaSシステムを利用することで、直接的に効率を向上させ、店のオーナーへの依存度を下げることができる。

同様に、マレーシアのB2B Eコマース企業であるDropeeも、同様の現象を確認している。 「Dropeeは2019年半ばまでB2BのEコマースのプラットフォームとしてスタートしましたが、Dropeeの機能を自分たちのために再現してほしいという売り手からのアプローチがありました」同社共同創業者のLennise氏はEコマースSaaSを行うようになった縁をこのように語る。そこで、Dropeeは、B2B ECプラットフォームDropee Marketplaceの他、B2B SaaSサービスDropee Directを発表した。加盟店が独自のECプラットフォームを構築してオンライン·オフラインのすべての注文を管理し、在庫のデジタル追跡、請求期間の管理、支払いリマインダーの設定などを行えるようにした。さらに深いレベルでは、SaaSの提供により、プラットフォームの背後にある買い手と売り手の関係を理解し、プラットフォームのトップセラー商品のレコメンドと予測をよりうまく行うこともできるとLennise氏は考える。「中国と違い、東南アジア、特にマレーシアは非常に『マニュアル化』されており、今でも紙とペンに頼ってビジネスを記録する。せっかくすべての人にデジタルソリューションを提供する機会があるのだから、やってみてはどうだろうか。」Lennise氏によると、Dropeeを利用することで、加盟店は運営費を最大30%削減することができるという。

第三に、EコマースSaaSプレイヤーは、フィンテックや物流企業との連携を深め、Eコマースチェーン全体でサービスを貫通する必要があります。 Eコマースには、注文の流れ、情報の流れ、物流、資本の流れなど多くのプロセスがあり、それは単に商品の配送だけでなく、パッケージソリューションでもあるのだ。このパッケージソリューションは、ECプラットフォーム、販売者、購入者、配送業者などの相互作用を含んでおり、ECサービス業者の総合力が試されることになる。東南アジアのEコマースは、Eコマースの成熟国と異なり、代引き注文が主流であるため、決済·集金や物流配送の改善は、販売者が最も関心を持つサービスの一つとなっている。

例えば、SaaS大手のShopifyは、傘下のShopify ShippingとDHL、UPS、USPSといった第三者物流会社と提携し、彼らの託送伝票をShopifyのプラットフォームに統合して、ユーザーがShopifyから直接物流·注文を管理できるようにしている。同様に、東南アジアのEコマースSaaS企業もこの経験から学び、J&T Express、Ninja Van、Sicepat Ekspresといった現地の物流企業とのパートナーシップを深化させ、現地の事情に合わせたイノベーションを行っている。また、ファイナンス面で、EコマースSaaS企業は、Paypal、Shopee Pay、Lazada E-Walletなどの決済手段を統合することに加え、BNPL(Buy Now Pay Later)セクションへのアクセスも検討する。Finderが2020年10月に実施した消費者調査によると、約110万人(シンガポール総人口の38%)がBNPLサービスを利用したことがあるとのことだ。

第四に、現地のEC SaaSプレーヤーに加え、中国のEC SaaSプレーヤーも東南アジア市場に続々と参入していることだ。例えば、華人市場向けに、Youzan AllValueは国際版WeChatのミニプログラム機能を正式に開始した。独立したウェブサイトの構築を支援するだけでなく、加盟店はワンクリックで国際版ミニプログラム店舗を開設でき、ヨーロッパ、アメリカ、東南アジアなどの海外の市場に簡単かつ迅速にアクセスでき、海外消費者のショッピング体験にマッチしているので、注文転換率を高められる。同様に、微盟(Weimob)も日本、韓国、東南アジア、オーストラリア、カナダなどで、海外の中国業者にSaaSサービスを提供しており、海外で顧客約300社を抱える。さらに、店小秘は東南アジアの現地販売者に特化したワンストップEC ERPシステムを立ち上げ、Shopee、Lazada、Tokopedia(Gojekと合併、現在はGoTo)、Bukalapak、Blibliといった東南アジアの主要Eコマースプラットフォームをサポートしている。実際、中国のEC SaaSプレイヤーの参入は、東南アジアEC SaaSスタートアップをさらに多様にしており、地元のプレイヤーは彼らの成長から多くを学ぶことができる。

この点について、前出の殷氏は、EコマースSaaSプレイヤーに次のようにアドバイスしている。「コピー&マージは比較的大きな、実行可能なアイデアです。ヨーロッパ、アメリカ、東南アジアの市場には、どの実務家も注目しない、あるいはやっていないテンプレートがまだたくさんあります。」東南アジア市場の起業家にとって、欧米のEコマースSaaSのノウハウは東南アジアにコピーしてくることが可能だし、中国のEコマースSaaSのノウハウを世界にコピーすることも可能だ。東南アジアのEコマースSaaSは全体としては、成熟国のサービスプロバイダーと同じ発展プロセスを辿るだろうが、全く同じにはならないだろうと殷氏は見る。特に、東南アジアのソーシャルEコマース市場は欧米に比べてもより普及している。そのため、特定のセグメントでは、現地の消費パターンに適応した東南アジアのSaaSサービスプロバイダーが、グローバルでトップクラスに位置してくる可能性がある。

最後に方氏は、東南アジアのEコマースにおけるSaaSの発展動向について見解を述べた。中小規模の業者にとっては、SaaSツール自体の利用料金はほとんどゼロに近い状態で、今後はサプライチェーンやファイナンス、トラフィックの配置など、より付加価値の高いサービスによってマネタイズしていくことになるだろうとのことだ。比較的規模の大きい業者にとっては、いわゆる「SaaS+」が並行していくことになる。東南アジアではECが初期段階にあるため、パッケージとしてSaaSシステムを直接加盟店に提供することはまだ難しく、企業による手厚いサポートが必要だ。

原文:「万字长文,读懂东南亚电商SaaS」(2022年4月21日)
http://www.baijingapp.com/article/38472


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