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#175 『「もう一回」の言葉の重み』

本日は、日本料理・未在店主の石原仁司さんの「もう一回の言葉の重み」についてのお話です。石原さんは、半年待たないと予約が取れない高級料亭「未在」を営む店主です。15歳で吉兆の創業者・湯木貞一さんに師事して腕を磨きながら、禅の教えに触れて真心を込めた料理をつくってきました。

京都吉兆で料理長、総料理長を歴任後独立して、京都東山に「未在」を開店しました。今回のお話は、吉兆時代の大ご主人から教わったことや学んだことについて語れています。一つ一つの料理が勝負であり、料理という道に終わりはないということがメッセージとして伝わってきて、それは料理の世界だけでなく、どんな仕事にも通ずるものだと思いました。


"「未在」という店名は、禅の意味で「修行に終わりはなく、常に向上心を持って上を目指せ」という意味です。僕が吉兆を退職した時、盛永ご老師のお弟子さんからいただいたご老師の墨蹟から頂戴した言葉なんですが、それは僕に対しての何かのメッセージでしょうね。"
"道を求めて終わりがないのは、皆がそうだと思うんです。それぞれの人に道があって、道を求めている人にとっては完成ということはない。また、そういう気持ちを常に忘れずに仕事の中で精進していくことが大切だと思っています。美しい自然を眺め、清新な空気を吸いながら心を浄めてこそ料理がおいしくいただける、という思いは僕自身の信念でありますね。未在を京都の喧噪から離れたところにつくった理由もそれなんです。"
"いまでも忘れられない思い出があるんです。僕は27歳で嵐山嵐山吉兆の料理長になって間もなく、大ご主人が毎週店に来ては目の前に座って料理を食べられました。特にお出汁にはうるさい人でしたので、お椀の吸い物を口にする度に「もう一回」と言われました。そう言われて出汁をひき直すと、また「もう1回」と。多い時は1日に3回もひき直したことがあります。鰹が足りないとか昆布が効いていないとか、そういうことは一切言わない。それが18年間も続いたんです。大ご主人は結局、それが何だったのかを説明しないまま平成9年に96歳で亡くなるんです。"
"「まだまだ未熟だ」という意味もあったと思います。だけど、僕が思うには一番、一番が勝負だよ、吸い物はそう簡単なものじゃない、料理の道は無限であるという精神を伝えてくださったのではないか、と。"


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/06/24『「もう一回」の言葉の重み』
石原仁司 日本料理・未在店主
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※Photo by Dale Scogings on Unsplash