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#273 『知識、見識、胆識』

本日は、コスモ証券元副社長の豊田良平さんの「知識、見識、胆識」についてのお話です。今回のお話は以前登場した、安岡正篤さんの言葉が紹介されています。

また、安岡先生は他のお話でも登場しています。


"安岡正篤先生がよく話されたことに、「牛のけつ」というのがあります。東京の谷中に南隠という偉い禅僧がいて、そこに新進の仏教学者が訪れる。二祖断臂の物語などを取り上げてとうとうまくしたてるわけです。二祖断臂の物語というのは、慧可が達磨に入門を請うた時、どうしても許してくれないものだから、雪の降る日、腰まで雪が積もるのを物ともせず、達磨の門の前で頑張るわけですね。達磨がその姿を見て、「まだそんなことをしておるのか」と言うと、慧可は「私はいい加減なつもりで教えを請いに来ているのではありません」と言って自分の臂を断ち、それを達磨に差し出した。流石の達磨も感動して、初めて入門を許したという話です。"
"仏教学者は、このお話はおそらく伝説で、おまけに達磨自体実在したかどうかは分からない。禅というものは、このように学問的にはあやふやな基盤の上に立った、いい加減なものではないかと、こういうわけですね。学者だからいろいろ研究もしているし、新しい学説も持っている。禅僧のほうは、知らない話だから、感心して聞いているわけです。さて帰る段になって、玄関で禅僧が、「あんたは牛のけつじゃなぁ」と言うわけですね。"
"学者先生、わけが分からず帰ったが、何のことかさっぱり分からない。気にかかって一所懸命調べるけれども、どこにも「牛のけつ」という言葉が載っていない。ほとほと困り抜いて、また禅師を訪ね、先日、禅師から「あなたは牛のけつだなぁ」と言われましたが、どういう意味かお教え願いたいと言ったら、禅師は呵々大笑して、だから学者は困る、牛は何といって鳴く、モウといって鳴くじゃろ、「けつ」はお尻じゃよ、だからおまえさんは「もうの尻、物知りじゃな」と言ったのじゃ、と。これを聞いてその学者はがっかりして帰ったという話です。"
"これは要するに、単なる物知りじゃいかんということですね。先生が晩年、繰り返し強調されたのはそれですね。単なる知識ではいけない、それは見識、胆識にまで高めなければいけないよ、と。先生は晩年よく、「豊田君ねぇ、見識だけでは駄目だよ、判断力だけでも駄目だよ、胆識がなければいけないよ」とおっしゃった。胆識というのは、物事をなす場合に、抵抗、障害を乗り越えて、とにかくどうしても実行して、それを必ず達成する。それが胆識です。"


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/09/30 『知識、見識、胆識』
豊田良平 コスモ証券元副社長
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※Photo by Kristopher Roller on Unsplash