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#336 『一筋っちゃええもんやぞ』

本日は、漁師の山田重太郎さんの「一筋っちゃええもんやぞ」についてのお話です。

"「おまえがいま海軍でやっておれるのは、結局先輩方にいろいろなことを教えてもらっているからだ。胡麻をすると思えば、卑しい気持ちになるが、先輩方のおかげという感謝の気持ちを持ってくれんか。そうすれば自然と先輩を敬う気持ちも生まれてくる」と諭してくれたのです。"
"目が覚めるよな思いがしました。改めて考えてみると私の考えはケチ臭い考えでした。先輩を敬うということは結局自分を生んでくれた親を敬うこと、そうして祖先崇拝にも繋がっていくことなのです。それに気づいた私の変貌ぶりが周囲にも認められたのか、実務の点数も上がりました。"
"小学校もまともに出なかった水平長の私が、航海学校の高等科に進むことになったのです。しかし、私が抜けた後に入った同い年の人間が、赴任後まもなく戦場に赴くことになり、そのまま海の藻屑と消えてしまったのです。まるで自分の代わりに死にに行ったようなものでした。あの戦争では多くの命が散っていきました。彼らのことを思えばいまも涙が止まりません。"
"生き残った私の人生というものは、いわば余生のようなものだと思うのです。だから、金儲けなど個人の利益ばかりを考えず、世のためになることをしなければならない。そういう思いが常に私の根底を流れていました。結局金や名誉には、この年になるまで無縁でした。何になりたいという欲もなく、ただ純粋にマグロを追いかけてきたのです。"
"50年近くマグロを追いかけるうちに、結局マグロは人間とちっとも変わらないということが分かってきました。そして、マグロが私の人生の師匠になりました。マグロの世界には原点があります。生物は必ず生きよ、生きるために学習せよ、という原点です。原点がはっきりしているから、長い歴史を生き続けてこられたわけです。"
"人間は自然を無視してバランスを崩しているから、そうした原点が見えなくなっています。いまの社会の混乱も、生とは何か、死とは何かといった原点を忘れたところに原因があると私は思うのです。"
"私が初めてマグロ漁船に乗り込んだのは昭和21年、24歳の時でした。夜も昼も寝ずに働く稼業の過酷さにほとほとまいり、陸上でこれだけ働けばもっと良い収入が得られ、出世するのではないかだろうかこの仕事は俺には向いていないのではないかと悩みました。船長に「辞めようと思います」と相談してみました。そのときの船長の言葉は、いまでも忘れません。「いやあ、重やんよ、一筋っちゃええもんやぞ。ほんまが見えてくる」。"
"その言葉に感動し、私は今日までマグロ一筋に生きてきました。だからこそ、他の人が見失いがちな''ほんま''すなわち原点を見失わず、有意義な人生を送ってこられたのだと思います。"


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/12/02 『一筋っちゃええもんやぞ』
山田重太郎 漁師
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※Photo by Paul Einerhand on Unsplash