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#92 『"生"と"生"を重ねて生きる』

本日は童話作家のあまんきみこさんの「人生」についてのお話です。今回のお話は、あまんさんの母や祖母から教えてもらったこと、学んだことを中心に語られています。スピリチュアルな要素がありますが、人からの教えや学びは、人生を生きる上での考え方の形成に大きな影響があることを感じることができるお話でした。

"人は誰しも、木の年輪のように心の芯のところに赤ちゃん時代をもち、次に幼少期、少年少女期、青年期、壮年期、そして老年期を抱えもっているかと思いますが、それが鮮かに蘇る時があることを、まだ若かった私は、祖母の涙で教えてもらいました。"
"祖母は長生きでしたが、母は43歳で胃癌のため永眠しました。ひとりっ子で甘やかされていた私は別れが辛くて、長い間おちこみ泣いていました。そんな或る日、「なき虫さん、泣いてばかりいると見えるものが見えなくなるでしょう」という言葉が聞こえました。これは幼かった私の涙を拭きながら母が言っていた言葉でした。私はその時「自分の中に母がいる」と感じました。「死者は生者の中にいる」ことにはじめて気づいたのです。"
"子供は二人育てましたが、二人が育っていくとき、私は、母の人生、自分の人生、そして子供の人生が三重になっている喜びを感じていたのです。ですから、母が亡くなった43歳になったとき、しばらくの間、余生の感覚になったことを、今も覚えています。"
"私は子供の時から母の好きな言葉、絵画、短歌、作家、画家、風景など、よく知っている思いがしてそんな会話があったのかしらとふしぎでした。それが数年前、それは母が日々に作っていたスクラップブックの力ではないかと気がつきました。病弱だった私は、よくそれをひろげて眺め読んでいたので、しらずしらず母の考えかたを覚えていたのでしょう。母自身が意識していたかどうか分かりませんが、いろいろなメッセージをもらっていたようにさえ感じます。"
"困ったり、心配したり、反省したり、迷ったりは数えきれませんが、このように歳を重ねてふりかえると、あの子育ての時期は、私にとって実感をともなった「三重の生」を生きていたと、今でも深い喜びとなって蘇ってくるのです。"


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/04/02 『"生"と"生"を重ねて生きる』
あまんみきこ 童話作家
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※Photo by Kelly Lacy from Pexels