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#199 『種田山頭火という生き方』

本日は、俳人の大山澄太さんの「種田山頭火という生き方」についてのお話です。大山さんは逓信省事務官を務めながら、自由律俳句の荻原井泉水さんに師事し、「層雲」の同人となります。戦後は著述と社会教育に専念し、教育文化賞を受けます。

今回のお話に出てくる、種田山頭火の句に魅了され、山頭火の俳句を世に知らしめる活動を続けました。以下の本は、「自己の真実を貫くために世俗を捨てて一介の乞食僧となり、托鉢行脚の旅の中で自在の心より涌き出る秀れた俳句を数多く残した漂泊の俳人・種田山頭火。その捨身懸命に生き抜いた一生を描く」という山頭火の生涯が綴られています。

"山頭火という人は幾度か私の家に泊まりましたが、帰る時、いつも後ろを振り向きもせず一目散に駆けていくのです。見送るほうとしては物足りないのですね。だからある雪の降る夜、山頭火が泊まった時、いつものように酒を飲みながら「あんたが帰る時、僕らが名残惜しんで見送るのに、いつも後ろを見ないで、すーっと逃げるようにして行く。あれはどうしたんか」と私が尋ねると、山頭火は酒を飲むのをやめましてね。「君、そう言うな。君らは月給もろうて生活に心配がないが、僕にような乞食坊主はあんたらに別れたらこれが最後で、どこで野垂れ死にするやら分からない。ひょっとしたらもう会えんと思うとつろうてならんので、手を振ったり、後ろ向くゆとりがないんだよ。『一期一会』というからの」そういう純な思いで出て行く人に、物足らんと思うのは愚かだなあと気がつきました。"
"東側の障子がわずかに白んだ夜明けの4時頃だろうか、私はふと目が覚めた。山頭火はどこかとこう首を回して探すと、すぐ近いところで僕のほうを向いて、じーっと座禅を組んでいる。その横顔に夜明けの光が差して、生きた仏様のように見えましたなあ。妙に涙が出て仕方ない。私は思わず、変えを拝んだもんです。さらによく見ると、山頭火の後ろに柱があり、その柱がゆがんでいる。障子を閉めても隙き間ができ、そこから夜明けの風が槍のように入ってきよる。それを防ぐために山頭火は、自分の体をびょうぶにして、徹夜で私を風から守ってくれたのです。親でもできんことをしてくれておる。...その時私は月給の4分の1を山頭火に使ってもらうことに決めました。山頭火が死ぬまでそうしました。"


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/07/18『種田山頭火という生き方』
大山澄太 俳人
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※Image by 二 盧 from Pixabay