赤こんにゃく食いながら意地張ってみた。--成長小説・秋の月、風の夜(11)
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高橋がなぜ、ぎりぎりと四郎が切なさや苦しさを感じるような、アクションリストを提示してみたか、というと……
四郎がひとりで絶望して、ふいっと姿を消してしまうような、NGアクションを知っておきたかったからだ。
つまり、手をつないで、キスはおでこで、触れずに車での送迎。それはOKだ。あとはだめだ。
「僕もさ、気持ちはあふれてくる。だけど僕には、生涯ただひとりの親友が、どんな恋より大切だ。
その優先順位は、自分でしっかり持ってたい。自分を嫌になりたくないんだ。
一方でさ、僕が存分に奈々ちゃんの相談役になっていかないと、とてもじゃないがお前との間柄が、ストレス満載になっちゃうだろう。
相談できる人間なしには、二人の恋を無事に育むことが難しいだろうとも思う。
つまり僕は、二人にとっての安心な相談係に徹する。調子に乗ってぺろっと頂いちゃいけないわけ。イメージわく?」
四郎は、黙ってうなずいた。
(たかてるさん、人生二番目のピンチですよ。言っちまったよー?)と、高橋は自分に語りかけた。どうも高橋には、今現在できないことを、言ってしまってからクリアする、というパターンがある。
人生最大のピンチは、十九歳のあのころだ。十六キロ痩せて死にかけながら、おじ二代目雅峰の未納品リストを片っ端から仕上げた。這うようにして、日本画家高橋雅峰(がほう)の三人目を承継した。
(あれを越えてきている。僕はアレを越えてきている。きっとたいていは、あれよりマシだ……)
「さあ、食べようよ。うまいよな」
「俺さあ、もつ煮てって、はじめてやん。高橋よう食べるの?」
形のよい口元をゆるませて、四郎は高橋を見た。高橋が太い眉を、くいっと上げた。すんなりした鼻筋、笑うとのぞく八重歯。
「そっか、はじめてか。僕も、千葉の家では出なかったな。はじめて食べたの、居酒屋だ……なあ、赤こんにゃく、奈々ちゃんの家にもおみやげに持って行こう」
四郎は、ホッとしたようにうなずいた。
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この二人がしゃべってる「ネタばれミーティング」はマガジン「高橋照美の小人閑居」で
「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!