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上手になんて生きられないけど、勇気がほしいあなたへ

これは、あるスズメの12年にも及ぶ生涯の記録です。

生まれつき障碍を持ち、著者に拾われてから相棒として生き抜いた”彼”は、ほかのスズメには見られないような才能を発揮し、最期まで著者に全幅の信頼をおいた、一風変わったスズメでした。

彼の鳥類としての知性の高さや、芸達者で音楽家としても際立った個性を発揮したことは、本書で詳しく述べられているのでここでは割愛します。

この本では、スズメの老いが語られています。

晩年の彼は、大病を患ったこともあり、身体の機能が著しく低下していきます。しかし、彼はめげずに驚異的な順応性を見せ続けます。

病気が一番悪かった時期に一縷の望みをかけて与えられたシャンパンを、彼はしっかりと飲み干すのですが、著者は後になって、彼にとってそれが嫌なものであったことがわかるのです。

それでも最初に与えられた時には嫌がらずに飲んだという記述は、私の心を深く捉えました。

生命には、生への執着が本能として備わっています。彼の行動もそういうことだと説明すれば一言で片づけられます。

が、人間はどうでしょうか。

痛みを終わらせるためや、思い悩む苦しみから逃れるために、あえて死を選ぶ人がいます。それも一人や二人ではないのです。

そんな人間社会において、今なお生きている人、私たち…

苦痛と縁が無い人もいるでしょうが、生きている限り苦痛を味わうことはいくらでもあります。

それを日々耐え忍んで生きているあなたに、この本を読んでほしいのです。

この本は生きることについて、手放しで大げさに称賛などしていません。懸命に生きた一つの命を、あまり情緒に頼らず描いたものです。

それでも、人間と相通ずる言語を持たない存在の描写について、記す人間の勝手な解釈に過ぎないと一笑に付す方もいらっしゃるでしょう。

ですが、言葉を交わし合える人間同士ですら、想像力をはたらかせてもなお、自分の世界でしか相手を理解することはできないものだということを忘れないでほしいのです。

言葉を弄して相手を騙したり支配したりするのではないだけ、むしろこうした存在の”感情”の方が信ずるに足るのではないでしょうか。


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