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「タケタケする」世界を創ろう【1】 <TK×世界ゆるスポーツ協会代表・澤田智洋 対談レポート>

複雑心奇形という先天性の心疾患で平均寿命は15歳と言われているTKことミウラタケヒロ。TKは2020年2月16日にその一つの節目となる15歳の誕生日を迎える。そこで、これまでのヒストリーと現在の活動、そして未来への一歩をお伝えする『TKマガジン』を絶賛制作中だ。現在はクラウドファンディングでその制作資金を募っている。

noteでは書籍コンテンツの一部「TKが大きな影響を受けた方々との対談」を紹介し、多くの方へお届けしていきたい。第一弾は、「世界ゆるスポーツ協会」代表・澤田智洋さん。澤田さんは『TKマガジン』に、「死ぬほど生きている14歳。」のキャッチフレーズつけ、息を吹き込んでくださった方でもある。2人(+TK母のYuuさん)の出会いや思い出深いエピソードを振り返り、これからTKが歩む道を語り合った。

“変人”同士の出会い

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−お二人の出会いを教えてください。

澤田:あいまいですが、1年〜1年半くらい前かな。

TKオリィさん(吉藤オリィさん)が、初期のOriHime(分身ロボット)を作った浜野製作所で「変人たちが集まる交流会」が開催されて、そこに参加したのがきっかけでした。

澤田:あの日のタイトルが「変人会」だったもんね。変人と言われて喜ぶ人の集まり。

TK :豪華なメンバーが集まったいい交流会でしたね。最初に突然、オリィさんがアイスブレイクのゲームをしようと言いはじめて、その中で、澤田さんとペアを組んで初めて言葉を交わしました。
 澤田さんが“041ファッション”という障害のある1人のために服を作るプロジェクトをユナイテッドアローズとコラボして立ち上げていると聞いて、「マジか!」と驚きました。「僕、めっちゃ好きなんです」と話したら、澤田さんが「わっ」って後ろに大きく一歩下がったんです。「え? どうしたんですか?」ってオカンが聞いたら、「嬉しかったんです」と答えていました。不思議なリアクションで笑ってしまいました。

澤田:嬉しいのに紛らわしいリアクションだね、我ながら。

TK:「この人、変人だ!」と思って、好きになって、個人的に連絡をさせていただきました。

スポーツというカードは捨てる?

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−その後のお2人の関わりを教えてください。

澤田:2018年の8月頃、NHKの「パラリンピックをどうやったら盛り上げられるか?」というテーマで5回シリーズの番組(ハートネットTV)に出演したんです。その番組の初回、僕から「スポーツを作ろうよ」という提案をしました。障害のある人は意外とパラリンピックに興味がなくて。そこで、視聴者の方からスポーツを公募して、関心を持ってもらおうと考えたわけです。
 たくさん応募がある中で、NHKの人から「いい案がきましたよ」と紹介されたのがまさかのTKからの投稿だった。この偶然、すごいでしょ? TKは、どうやってその企画を知ったの?

TK:純粋に番組を見ていたんです。ハートネットTVは面白い回があるので見ているんですよね。

Yuu:一緒に番組を見ていて、「あっ、どんなスポーツを作ったらいいですか、だって。応募してみる?」という話になって、「内部障害者のスポーツを作ってください」とメールを送ったんです。そうしたら、すぐに連絡をいただきました。

澤田:何百通も応募があった中から選ばれているはずですよ。

TK:絶対に通らないと思っていたからビックリしました。

澤田:さすが引きが強いね(笑)

Yuu :実はその回は、番組の最後の方をチラッと見ただけだったので、澤田さんが出演されていることは知らなかったんです。返事をくれた制作担当の方がご紹介してくださったのが澤田さんで。「え〜知っています」と驚いた。

澤田:僕も「こういう人に決まりました」とTKを紹介されて「あ〜知っています」となりましたね。

−それまでTKはスポーツを全然してこなかったのですか?

TK:う〜ん。芸能人が選手や監督のモノマネをするのは見ておもろしろがっていたんだけれど、スポーツ自体には興味はなかったかな。自分で体を動かしてみたいという気持ちはあったけれど、結局しんどくなるからね。

澤田:「あきらめた」という言い方が適切かはわからないけれど、スポーツ以外にも楽しいことがあったから、「スポーツというカードは捨てよう」みたいな感じ?

TK:そうそうそう! ボードゲームとか、テレビゲームも楽しいから、別にスポーツできなくてもいいやって感じだった。ただ、自分はそれでいいんだけど、俺と同じような障害を持っている人たちの中には「スポーツがしたい」という人たちもいるはずで。そういう人たちが、スポーツで盛り上がれたらいいなと思ったんだよね。

Yuu:番組の中でも、「スポーツの楽しさがわからないから、やりたくないんです。でも、自分が発信することで、新しい競技ができて、みんなでできたらいいな」と話していましたね。

TK:みんなでできたらいい。別に自分はどうでもいいんですよね。

澤田:TKっぽいよね。

TK:そうかな。スポーツのみならず、みんなが楽しめるようになればいいなと思っているんだよね。


TKスポーツ 500歩サッカーの誕生

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−番組では、どのようなスポーツが生まれたのでしょうか?

澤田:世界ゆるスポーツ協会の事務所で「どういうスポーツがいいのか? どんなことが好きなのか?」といった雑談をする中で、「500歩サッカー」に決まりました。
 500歩サッカーは、5対5でやるフットサルで、ひとり500歩しか歩けないというルールです。歩いた分だけ、ベルトに付けているカウンターの数が減っていく。いかに動かないかが勝負のスポーツです。

TK:振動でカウンターが減っていって、音で知らせてくれるんですよね。

澤田:3秒以上止まっていると、4秒目から1秒に1歩回復します。走り続けることはできない、体力のない人をベースに作ったスポーツです。試合中に強制的に休まないといけないですからね。そして、休憩するタイミングもプレーを左右する。TKにぴったりでしょ。はじめは500歩だと無理があるかなと思って100歩サッカーにしたんだよね。

TK:そう。歩数はコントロールできるので500歩の真剣勝負じゃなくて、100歩くらいのゆるい感じでもいいかなと思って、それでNHKの人と対戦しましたね。体を動かすのは少ししんどかったけど、休みながら体を動かせるから思ったより大変さはなかった。

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(500歩サッカーのカウンターを付けるTK)

澤田:TKは、無人のゴールにシュートを決めていたもんね。夢中でやっていると気がついたらカウンターが0になっている。

Yuu:最初の試合で、他の健常者はどんどん歩数を使い切って動けなくなる中で、TKは最後まで残っていた。普段から動かないようにしているから、すごく有利だという印象でした。

澤田:僕らがスポーツを作るときは、「プレイヤーみんなを障害者にする」という発想で、障害のある方の条件に合わせてルール設計をしていくんです。人は、障害を背負った新たな自分とはすぐには向き合えないので、パニックになって、うまくハンドリングできなくなる。
 あと、ハンデは設けません。僕は、「TKだから3分以内」とか、「女子がシュートを決めたら3点」とかいうハンデは差別だと思います。「澤田がシュート決めたら2点ね」と言われた瞬間に「それは僕が下手ってことですか?」と傷つくからね。
 参加者によって、頻繁にルールを緩めたり、変更したりすることはありますが、あくまでフェアな変更をしたいと思っているんです。

TK:スポーツをやりたい人がフェアな試合を望むなら、他の人は遠慮しなくていいと思う。変に優しくしなくていいんです。

澤田:僕らがスポーツを作るときは、障害者を甘やかさない。スパルタなんですよね。

TK:それがいいよね。

澤田:最近、「サバイバルサバンナ」という新しいスポーツを作りました。10m四方の中に5人くらい入り、鬼にタッチされた人が鬼になります。鬼が点々と移り変わっていくわけです。90秒経った瞬間に鬼だった人が負けるというスポーツです。
 で、ポイントは、みんな動物の被り物を被っていて、耳たぶに心拍計測デバイスをつけていること。緊張して心拍が速くなると、例えばライオンの被り物をしている人だったら、「ガオーン」と鳴いてしまう。そうすると、鬼にいる場所がバレてしまうんです。冷静な人からは鳴き声が出ないから、つかまらないという仕組みです。

TK:やってみたい。俺、強いかな? でも緊張しいだから意外と弱いかもな(笑)見つかるかどうかのギリギリの状態だと、テンションが上がって吠えちゃうかもしれない。

澤田:先々週は、健常者の大人と子ども、視覚障害者の大人と子どもが渾然一体となって楽しんだんです。誰がブラインドかもわからないし、むしろブラインドの方が強い。みんな鬼に怯えて緊張感がある中なのに、突然「ゲロゲロ」とか鳴き声があがるんですよ。すっごくおもしろいの。
 ゆるスポーツは、現在80競技ほどあります。同じ教室にいたら友達にならないだろうなという人でも、同じ現場でスポーツをすると必ず仲良くなるなと思っています。

障害者は発想の宝庫

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−ゆるスポーツの発想はどこから生まれるのですか?

TK:以前は、障害者の方からの意見を聞くと言っていましたよね。

澤田:うん。その人の強みは何か、弱みは何かを聞きますね。

TK:おじいちゃんやおばあちゃんにも聞くんですよね。

澤田:うん、おじいちゃんとずっとお茶をして、「どうですか?」「何が好きですか?」と聞くこともある。

Yuu :澤田さんが前に「TKはしんどくなったらどうなるんですか?」と聞いてくださって、「心拍が少なくなっていきます。頻脈になっていくんです」と答えました。すると、「おもしろい!」ってすごく嬉しそうな顔をされて、「この人こそ、おもしろくて最高!」と思いました。

澤田:喜んだ理由は、新しいアイディアのヒントになるからなんです。サッカーは、頭と足は使っていいけれど、手を使わない勝負じゃないですか。僕からすればサッカー選手は、手を使わないという意味で障害がある状態なんです。新しいスポーツを作るときに、障害のある方はヒントになるんですよ。

TK:スポーツの仕組みで、みんなをフェアにする。

澤田:だから、視覚障害と知的障害と自閉傾向のある方がスポーツに参加したいとか言ってくれると、「最高だ!」と思いますよ。健常者は標準というのがあって、どうしても予定調和になりがちだなと感じるんですよね。

TK:障害者の方がおもしろい?

澤田:そうそう。僕の6歳の息子は、目が見えないんです。彼と一緒にいると、毎日がハプニングの連続。「まさかこんなこと起こるの?」と驚きます。まったく予定調和じゃないから、コンテンツとして考えるとおもしろいですよね。
 例えば、二足歩行するのが遅かったんです。なぜ二足歩行をしなければいけないのかという理由がわからないし、ゴールも見えていない。僕たちが当たり前だと思っていたことが、当たり前じゃないんですよね。
 その概念がすごくおもしろいし、勉強になる。そして、僕自身も成長できるんです。息子に障害があると言うと、「えっ!」と驚かれるけれど、それに対して僕も「えっ!」とびっくりするんです。息子は予定調和の先を行く最先端の人で、毎日最高だなと思っているからね。

***つづく***