岸田文雄が総理大臣である意味

現在の我が国の総理大臣、岸田文雄さんの著書、
「岸田ビジョン」を読みました。

もともとは昨年の自民党総裁選の前くらいに
単行本として出版されたのですが、それが文庫化されたものです。
書店の店頭に並んでいるのをみて、
どこかで聞いた響きだな、と思っていたのですが、
同じく自民党の参議院議員、西田昌司さんの
YouTubeチャンネルの名前が「西田ビジョン」でした。
きっとそれが脳裏にあったのでしょう。

ちなみに私は自民党支持者ではありませんが、
西田ビジョンはよく見ます。西田さんは個性的で興味が湧くからです。

で、普段なら自民党の政治家が書いた本は読まないのですが、
(あ、西田さんの本は読んだことがあります。「総理への直言」という本です。)
今回、なぜか気になって書店で購入して読みました。

気になったのは、サブタイトルに
「分断から協調へ」という言葉があったからです。
この言葉は自民党というよりはむしろ、リベラルな野党勢力の言葉であり、
私にとっては馴染みのある言葉だったからです。

本を読んでみて、正直に思ったことは、
「うそだろ~?」・・・ではありません。
私は騙されやすい性格なのかも知れないですが、
ここに書かれていることは、
恐らく彼の本心なのではないか?と思うのです。

「聞く力」という、安倍菅政権時代の自民党からは考えられない
キャラクタライズを掲げる岸田文雄総理ですが、
この本の目次を読むだけでも、なかなかです。
(いちぶ気になった単元も記します)

第1章 分断から協調へ
・「47」歳の日本
・「バズーカ」の限界
・中間層の底上げを!
・持続可能性と三つの視点
第2章 ヒロシマから世界へ
・勝者なき戦争
・自由・民主主義・人権の尊重・法の支配
・黒い雨の記憶
第3章 「信頼」に基づく外交
第4章 人間・岸田文雄
・野球から学んだチームプレー
・歩いた家の数しか票は出ない
第5章「正姿勢」の政治
・「一区」で勝ち抜くことの難しさ
・ビールケースに立ちつづける
第6章 闘う宏池会

この書の中で彼は慎重な言葉でアベノミクスを認め、
民主党政権を批判しつつも、
「トリクルダウンは起こらなかった」
「格差を拡大させた新自由主義からの脱却」を訴え、
注目すべきは社会の持続可能性であること、
そのためには分断ではなく協調しなければならないこと、
核なき世界の実現や、外交における対話の重要性、
格差をなくすためのキャピタルゲインに対する増税、
将来的な原発依存度の低減やLGBTを含めた多様性社会の実現を説き、
自らを「リベラル」と言っているのです。

上に書いた内容に私は賛同できます。
むしろこれを自民党が声高に言ったら、
野党との差がなくなってしまうのではないか?とさえ思います。

私は政治家を見る時に最初に気にするのは
細かなひとつひとつの政策ではありません。
その人が、いったい何を「良し」としているのか、という
人間としての価値観の部分を見ます。
その価値観が「ありたき社会像」につながるわけですし、
そこが握れていれば、最終目的地は同じなのですから、
実現のための経路はいろいろあっていいわけです。

もうひとつは、その人の信条への真剣さです。
本気でそう思っているのか?という部分ですね。

何を良しとするのか、という価値観と、本気度。これです。
私が興味を持つのは人間としての政治家その人なので、
ここが最も重要なのです。

で、人というのはだいたい雰囲気や、目、言葉、
醸し出すオーラで、価値観と本気度はわかるものです。
そういうとき、私は岸田文雄という人物を見ていて、
どうも安倍晋三や菅義偉とはちがう何かを感じるのです。

皆さんはどう思われますか?

彼は確かに総裁選のとき、つまり総理大臣になる前は
この本に書かれていることを掲げていたんですよね。

あの総裁選は衆院選を前にして約1ヶ月ほど
メディアを自民党の主要メンバーでジャックするという効果があって
選挙戦略的にもうまかったわけですが、
それ以上に、候補者それぞれがまったく別のことを掲げていて、
非常に面白い状況になっていました。

自民党は、実際のところ、まったくひとつの政党とは言えないほど
中身がバラバラなのです。
見ている人はそれに気づいたでしょうか。

その後、立憲民主党が衆院選で敗北したことを受けて、
代表選が行われました。
四人の候補者が立ちましたが、それぞれの主張はそれほどちがいません。
そして世間はそのことに文句を言いました。

・・・どうなんでしょうね。
有権者はリベラル野党に関してはほんの少しの意見の違いも許さず、
野党同士が手を組むことにアレルギー反応を示しますが、
対する保守・自民党は、連立を組む公明党とのちがいもさることながら、
自民党の内部がまったくちがう考えの政治家たちであふれている。

しかし、そのことに文句をいう人はいないですよね。

自民党の強さの秘密はいろいろあるでしょうが、
その中のひとつとして、様々な考えを包含しながら、
政権だけは維持する、ということがあると思うんですね。

例えば安倍晋三が所属する清和会は自民の中では右に位置し、
岸田文雄の宏池会は左なわけです。
そう考えると、今回の岸田政権は、
右から左へのかなり大きな政権交代だったわけです。

自民党は派閥がどうなっているのか、ということを知ると
ちょっと面白くなっていくわけです。

そして今回の清和会から宏池会への政権交代は、
アメリカで言えば共和党から民主党に政権が変わったのと同じような
大きな出来事なんですね。

けれども、やっぱり同じ自民党なのです。
共和党から民主党に政権が変われば、
今までの政権の負の部分を明るみに出して、
それを整理していくところから仕事が始まるはずですが、
彼らはやっぱり同じ政党です。

自民党の中から安倍晋三だけを取り出して、
部分的に排除するということを有権者はやりません。
自民党は全部自民党なのです。

そして岸田文雄さんが総理の椅子に座っていられる要因に、
安倍晋三らの力によって自民党が強者でいるということも
多分に影響しているわけですから、
ドラスティックな内部分裂をするわけにはいかないわけですね。

私は、岸田文雄さんが総理になった途端に
掌返しのように総裁選前の主張を変えた経緯には、
そのような力学が働いているのだと思っています。

総裁に決まるかどうかわからない間は好きなことを言えるけれど、
いざ総理になったら、他の派閥の意見を潰すことはできない、
ということです。
ましてや官邸による独裁体制を築き上げた安倍晋三は
総理の座を降りてもまだまだ力は強いのでしょうから。

そうなると、岸田さんのミッションは
総理の座から降りないようにするためにバランスをとりながら、
自分のやりたいことがやれる状況をゆっくりつくり、
タイミングを見計らって勝負に出ることなのではないかと思うのですね。

総理の椅子はひとつしかないですから、
自分が座っていれば、他の人を座らせないことができるわけです。
だからまず最初のミッションは是が非でも総理でいつづけることなのです。

自分が総理でいる間は、他の人間が総理である可能性を潰せます。
1日1日、時間を稼ぐことができます。
その間に、様々なことが起こって、状況も変化するでしょうから、
その中で焦らずに好機を作り出せるようにしているのでは?と思います。

今は頼りないように見えたり、
あるいは掌返しをしているように見えますが、
自分がその立場にいたらどうだろう?と考えると、
それしか方法はないかもしれない、と思えてきます。

もちろん野党は批判すべきですけどね。「掌返しだ!」と。

しかし、彼自身の中にどうしても
譲れないものはやはりあるのだと感じます。
それは今回のウクライナ情勢を受けて、
安倍晋三が核シェアリングについて口にしたときに思いました。

岸田さんは「日本には非核三原則がある」と言って
核の可能性を一蹴しました。
そこにはやはり、被爆地広島出身の政治家であるという思いと、
背負っている地元有権者の存在があるのでしょう。

ここのところ憲法改正議論も含め、
日本は血気盛んで勇ましいことを言いたがる人たちの力が
強くなってきています。
安倍政権の間に、いつのまにかアメリカと一緒に
戦争ができる法律ができてしまったし、
武器だって輸出できるようにしてしまいました。

安倍晋三の置き土産である「敵基地攻撃能力」に関しては、
岸田さんも明確に否定して見せませんから、
今回の核シェアリングでも自民党が一気に声を大きくするのでは?という
危険性を感じていました。

しかし、岸田さんは即座に否定しましたね。

彼の中に「ここまではいいが、ここからはダメ」という
線が引かれているように感じました。

こうして考えていくと、自民党が分裂して右派と左派にわかれ、
左派側で宏池会と立憲民主、共産、社民、れいわ
(こうなると多分公明党もこちらか?)が緩やかに大きくつながって、
右派側で清和会と維新、国民民主などがひとつになって、

政界を大きな意味で二分しながら定期的に政権交代していくのが

日本のためにはいいように思いますが、

自民党はそういう左右のイデオロギーではなくて、
どの派閥も「憲法改正」と「国体論」に関してだけは

一枚岩になっているのだと思います。

ここが難しいですよね。
憲法改正こそが自民党結党の理由であり、党是ですからね。

長いこと引っ込めていたから、知らずに支持してきた人が
大半だと思いますが。

・・・ということで、私の立ち位置はリベラル野党側なので、
岸田さんが総理である、ということを
もっともっと上手に使うことはできないものか?と考えてしまいます。

他の人間が総理でいるよりはずっとマシですからね。
病気は治っていないけど、解熱剤で熱だけは下げている、
みたいな状態だと思います。

その間に水分をしっかりとったり、栄養をとったり、
病院に行ったりして、なんとかこの国の体調を健康にしたいものです。

以上、とりとめもない内容でしたが、
「岸田ビジョン」の読書感想文でした。

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