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【短編小説】名探偵・明槻千歳は絶対に探偵を辞めない(企画「曲からストーリー」に寄せて)

 こんな夢を見た。

 名探偵・明槻千歳が探偵事務所を畳んでからというもの、殺人事件が後を絶たない。当然の流れだと思う。犯人を名指しする探偵がいないのだから、犯人からしてみればローリスクで犯行に及ぶ絶好の機会である。もちろん警察だって黙ってはいないが、警察は犯人を逮捕する機関であって謎を解く機関ではない。被害者のダイイングメッセージも密室で人を殺害したトリックも解決されないまま、未解決事件のストックばかりが増えてゆく。
 明槻千歳の退場とともに明らかになったのは、この世界には殺人衝動を抱えた人間がかくも多いこと、そして探偵は根本的に犯罪を解決しないということだ。探偵のしていることは所詮対処療法なのである。事件の謎を解く、事件の犯人を指名する、悪の存在を指摘する、真実を暴いてまた次へ、次へ、次へ。探偵は常にそんな無間地獄の中にいるし、そこを地獄だと思ってしまった探偵は最早探偵ではない。果たして、明槻千歳は今もまだ探偵だろうか。

 愚問である。明槻千歳は絶対に探偵を辞めない。明槻千歳は無間の地獄を天国と解釈するし、永遠に降り続く謎を愛している。いつか私と滝壺へ落ちるまで、この地獄でともに踊り続けるのだ。そうだよな、と呟いて、連続殺人の謎の先に、祈りにも似た答えを仕込む。

当たり前じゃないだろ?
辞めた訳じゃないよな?
だとしたら「答え」探して...

MY FIRST STORY "I'm a mess"より引用

企画「#曲からストーリー」に寄せて。素敵な企画有難うございます。

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