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鬼滅の刃で中学英語#47~「それ」じゃ訳せない「it」たち① 天気の「it」~

「it」と「this」と「that」の違いを解説した#46の中で、「it=それは」とされる理由をご紹介しましたが、実は「It=それ」ではない使い方はかなり多く、丁寧にすべての意味を紹介している所もあります。

TOEICで高得点を取りたいとか、大学受験で成功したいというならまだわかりますが、ハッキリ言って、初学者、中学生が読むにはハードルが高いですり、残念ながら覚えきれません。

なのでここでは、『鬼滅の刃』英語版に使われている「it」に絞って、どうやって使われているのか、そして、なぜそうなっているのかを、わかりやすく解説していきますね。

「それ」じゃない「it」もある

学校英語の日本語訳は、辞書の通り「it=それは」と必ず訳させますし、それを元にした問題文も数多く見られます。

たとえば、

問 日本語に合う英語になるように、( )内の語句を並べかえよ。
これは何ですか。( this / is / what / ? )
②(①の答え)それは黒帯です。( it / belt / a / is / black / . )

のように、「これ」の対応語が「this」、「それ」の対応語が「it」と考えて文章を作らせる問題ですね。

よくよく考えたら、「それはblack beltです」なんて見りゃわかるだろ、「judo belt」とでもした方がよっぽどわかりやすいわ!・・・というヘンな例文ですが、実際にこういうバカみたいな文があり、「it」についても「深く考えずに『それ=it』と理解しよう」という、「空気読め」型の教え方がデフォルトになっています。

それは、日本の学校英語が、未だに「ペーパーテスト」を重視した教え方になっているためで、「it」を教えるのは、辞書通り「それ」と教えた方がわかりやすいのです。最初はね

しかし、英語を習えば習うほど「it=それ」で済まないシチュエーションも結構出てきます。

たとえば、下記のように、

It rains.=雨が降る

「天気」の話なら主語は「It」になる、ということを習います。
(※ちなみにrainsなのは、三単現だからです)

この英文には「it」が入っていますが、日本語訳を見ても「それ」に相当するものがないので、「It=それ」じゃなかったんか!? となりますよね?

天気をあらわす「it」?

日本人の感覚でいくと、「雪が降っている」を英語にすると

Snow is falling.
※fall=落ちる、降る、という動詞
※is falling=降っている(現在進行形)

という感じにしてしまいがちです。

実は、間違いではないのですが、一般的にこういう使われ方はしません。

ネイティブが使う表現は下記のようになります。

「and」を紹介した#34や、「have to」を紹介した#41にも登場した、鬼滅の刃英語版、第1話のシーンを見てもらいましょう。

(出典『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.1』/原作『鬼滅の刃』第1巻

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You don't have to go. It's snowing and it's dangerous.
雪が降って危ないから 行かなくてもいいんだよ) 

ここでは、原作の「雪が降っている」という言葉を

It's snowing(=It is snowing)

というように、「It」を主語にしているのです。
ちなみにこれは「雨」であればもちろん、

It is raining

となります。

ここで日本五的な感覚で「it=それ」とするならば、「It is snowing」は、

It=それは
is ~ing=~している(現在進行形)
snow=雪

と単純に考えて、「It is snowing=それは雪している」というヘンな訳になります。

これは我々日本人としたら「まともじゃない」と感じると思いますが、このように「it=それ」では表せない「it」の使い方もあるのです。

なぜ天気の主語が「rain」や「snow」ではないのか

日本人の感覚では、雨や雪などが主語になるのは自然なことです。

でも、英語では主語は「It」になります。

理由を簡単に理解する方法が一つあります。
それは「雨」「雪」という言葉に注目することです。

日本語では「雨」や「雪」は、名詞です。だから、主語になりえます。

「あ、雨だ」と言っても、それは空から水滴が落ちてくる「雨」という事象を表すのであって、「雨が降る」という動作そのものを表してはいません。
だから、「降る」という動作を表す動詞がつくんですね。

では、英語では?

英語の「rain」「snow」は、名詞でもあり動詞でもあります

rain(ウィズダム英和辞典より抜粋)
[名詞]雨、雨水、降水量、降雨、雨天
[動詞]雨が降る、雨のように降る・降り注ぐ、雨のように降らせる

つまり英語では、日本語と同じように「雨」というい事象そのものを表すことも出来るし、日本語の「雨が降る(名詞+動詞)」を、英語は「rain(動詞)」の一言で表すことが出来るのです。

なのに、わざわざ「Rain falls」と言ったり、「Rain is falling」と言う必要はありますか?

ないですよね。

だから、日常会話では「rain」や「snow」を主語にしないのです。

逆に言うと、わざわざ「Rain is falling」のような表現を使う時は、主語を「Rain=雨」にしたい時・・・つまり、「雨が降っていること」を強調したい時になりますから、物語や歌などでは「Rain is falling」という表現はまったくおかしいものではありませんし、実際にそういうタイトルの曲もあります。

この曲は、「ロックの殿堂」入りしたイギリスのロックバンド、エレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)の「Rain Is Falling(邦題:さらばロンリーレイン)」という曲ですが、タイトルはもちろん、作中でも「Rain is falling」を連呼していますよ!!

天気の「it」は何のために存在するか?

とはいえ、「Rain」や「Snow」を主語にすることは珍しく、やはり日常会話では天気の主語は「It」です。

では、なぜ「It」を主語として持ってくるのでしょうか?

その答えは、英語の「主語を必要とする」という性質にあります。

この「鬼滅の刃で中学英語」で散々取り上げていますが、英語は「主語+動詞」という形がド定番です。

『鬼滅の刃』の原作で「俺は」という言葉がひとつもないシーンでも、「I」という主語を入れまくるのが英語です。

(出典『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.1』/原作『鬼滅の刃』第1巻

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そして、最後に動詞が来る日本語と違って、「重要なことを先に言いたい」という英語の性質上、英語は「動詞は前の方、主語の後ろに来る」という特徴があります。

つまり、「主語+動詞」で、何が言いたいかを明確にしなければならないわけです。

しかし、「rain」や「snow」は、それだけで「雨が降る」「雪が降る」ということを表せる動詞です。

主語って重要ですか?

そこなんです。

「Rain is falling」のように、「雨」に注目してもらいたい時には、主語=rainでよかったのですが、雨が降っていることを言いたいわけですから、注目してほしいのは動詞(以降)ですよね。

そうすると、主語を熱心に語る必要があまりない。

英語はそんな時、主語に「It」を持ってくるという技を使うのです。

これは、主語を省略することのできる我々日本人にはなかなか理解しがたいものですが、英語は文法上、主語を省略して動詞を最初にしてしまうといわゆる「命令形」になってしまいますので、「It」という言わば仮の主語を置くことで、「文法的に落ち着く」形にしているのですね。

天気の主語が「It」な理由

なぜ英語の天気の文の主語が「It」なのを、調べた方がいました。

これによると、

①「it=The weather」説
②「it=共通認識」説
③「it=神」説

のように、いくつか考えられるそうです。

実際の所、あまりにも当たり前すぎて、「なぜそうなのか?」というものに答えは出ないのは日本語と同じなので、「絶対にコレ」という理由はないのでしょう。

しかし、私が思うに、①も②も正解だろう、というか、使い勝手がよかったので定着したのだろうと思います。

たとえば、①「it=The weather」説について。

「雨」というのは何ですか?

「天気=the weather」ですよね。

だけど、日本人もそうですが、「今日の天気は雨だね」というよりも「今日は雨だね」で済ますことってないですか?

日本語では、「天気」という主語の「存在」を省略することができますが、英語では、「The weather=天気=It」と主語の「形」を省略する文化があります。

「雨」のことを話すのだから「天気」なんて代名詞「It」でいいじゃん、と考えたと理解するとわかりやすいです。

②「it=共通認識」説について考えてみましょう。

前回#46でご紹介したように、「It」の概念そのものが、

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こういった、相手との共通認識でもあるんですね。

そして、「rain」が出来るのは天気しかないわけで、その主語を何かを語るなんて不要だから「It」という代名詞が使える、と理解もできると思います。

ここは言語としての英語を掘り下げるというよりはか、マンガを使ってネイティブが使う英語を理解しよう、というものなので、この二点の理解をしておけば、英語の天気の文の主語に「It」というものを使う理由に納得をいただけけてよいのかなと思います。


それとこの考え方は、他の「『それ』と訳せない『It』」にも、言えるからです。

それはまた次回、ご紹介させていただきます。

本日のまとめ
・日本語の「雨」は名詞だが、英語の「rain」は名詞でもあり動詞でもある
・だから、天気を表す時は動詞の方を使い、通常、主語が「it」になる
・「rain」を主語(名詞)にしたいときは、それを強調したい時

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