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「再起へのナインボール」Kindle出版(4)

やがて九州大会や全国大会にも出場できるようになったが、当然のことながらYさんには勝てなかった。
少しでも場慣れしたくて、知らないビリヤード場に行って、「ここで一番上手な人と賭け球がしたいのですが」という「道場破り」のようなことは何回もやった。
プロと毎日撞いていたので、その人以上に上手な人はいないだろう、と思っていたわけではあるが、いまにして思えば、無謀すぎて恐ろしい限りだ。

初対面の相手に挑発されて(自分はしたつもりはないが)、最初はイラっとしていた相手も、球を撞くごとに打ち解けていき、勝負が終わるころには、いろいろと話すようになった。
そのおかげもあって、あらゆる場所に「ビリヤード仲間」はできた。

地元に帰省した時もそんなことをやって、最初は険悪ムードだったものの、終わるころには仲良くなっていた。
どうやら私が行った店は地元で一番有名な店らしく、他にも上手な人がいるようだった。
「誰と撞いてるの?」
と聞かれたので、Yさんの名前を出したら、
「今度連れて来てよ」
と言われた。
帰ってからYさんにその話をした。

それから数日後、Yさんに「おい、遠征するぞ」と言われた。
話を聞くと、自分の地元の例の店に行くという。
「車で2時間以上かかりますよ」と言っても、
「大丈夫、俺が高速ぶっ飛ばしていくから」と。
急いで地元の店に電話をして、2時間後に精鋭メンバーを揃えてもらうことになった。

自分はギャラリーのつもりでついて行ったのだが、
「当然赤星も撞くよな」
と言われて、やむなく入った。
撞いたのは全部で6人くらい。
その辺のトーシロならいざ知らず、相手はプロ相手に撞こうとするレベル。
ほとんど球を撞く機会もなくボロ負けした。当然Yさん一人勝ち。

ボロ負けなのはわかっていたが、ショックだったのは、自分と同世代の人が一人いて、その人が自分よりうまいなと思ったことだ。
帰りにYさんに、
「あの若い子、赤星より、キュー切れもポケット力も、少しずつ上だよな」
と言われた。はい、おっしゃる通りで。

おとなしくて優しかったYさんだが、たまにすごい行動力に驚かされた。

当時お世話になったYさんは、いまだにプロで活躍している。

小説が面白いと思ったら、スキしてもらえれば嬉しいです。 講談社から「虫とりのうた」、「赤い蟷螂」、「幼虫旅館」が出版されているので、もしよろしければ! (怖い話です)