日本の銀行と企業が機能不全に至るシステム

にて松田学氏が日本経済のデフレの問題点を指摘しているのですが、私見ではきわめて真を突く内容であるかと思いますので、引用します。
(現在の松田氏の松田プランなるデジタル通貨の案にはあまり興味は有ません)

いわゆるデフレ克服というのが、やはり金融機関の信用創造というか、それが伴わないとなかなかできないんじゃないかという認識があるからであります。

 一般に、通貨をふやせばそれだけ物価が上昇するという、経済学では貨幣数量説みたいな考え方があるんですが、ただ、通貨をふやしたところで、実際に人々がこのお金を使って支出に回さないと、通貨の回転速度といいますか、これが下がって、結局、資産ストックが積み上がる。フローの中にマネーが回っていかないと、なかなかデフレというのは克服されないのじゃないかというふうに思うわけであります。

 その中で、中央銀行ができるのは、金融市場にマネーを、いわゆるマネタリーベースといいますか、昔でいうとハイパワードマネーを供給するということができるんですが、そこから金融部門が実体経済にどれだけ信用創造するかということが結果としてマネーサプライをふやしていくことにつながるということであります。

 そういう点からいうと、どうもこの金融政策だけで物価目標とかあるいはデフレ克服というのはなかなか困難なので、アベノミクスというのは財政政策で公共投資を拡大する、需要を拡大するとやっているんですが、これも経済効果では一時的なカンフル剤、そう言われている。やはり民間需要中心の持続的な成長に結びつくためには、信用創造を民間の金融機関がしっかりとやっていかないとデフレ克服はできないのじゃないかというふうに思うわけですね。

 しかし、銀行の状況を見ていると、どうも最近というか、ずっとこのところそうなんですが、貸出先がない、事業性のある、収益性のある貸出先がなかなかないんだ、資金需要がないというのが銀行側の説明で、一方で、中小企業とか借り手の方は、銀行が貸さないからなかなか収益性のある事業が展開できない。卵が先か鶏が先かみたいになってしまって、結果として、預金残高は、銀行に対する預金はどんどんふえていますけれども、国債の運用が専らふえてなかなか貸し出しが伸びないという現象が起こっているわけですね。

 九〇年代後半ぐらいまで、預貸率、いわゆる預金に対する貸付残高の比率ですが、大体一〇〇%ぐらい日本の銀行はあったのですが、このところ大体七割ぐらいまで低下している。
(※2022現在はさらに50パーセント代に低下)

 不良債権の処理というのを昔やっていたんですが、それがめどがついてもう十年ぐらいたっても中小企業向けの残高が低下してきている。これは、もちろん企業の資金需要が低迷しているというのもあるんですけれども、やはり金融機関のサイドでリスク回避的な与信態度というかそういう問題が相当あったのではないか、これがデフレが継続してきた一つの原因なのではないか

 金融機関の財務の健全性というのは、究極的には、リスクをとらない。極端なことを言ったら、全額国債に運用すれば財務の健全性になってしまう

第183回国会 内閣委員会 松田学代議士

このような現象がなぜ起こったのでしょう。その流れを考えてみます。

1992年 銀行に自己資本に対して一定量しか貸し出しできない規制を掛ける(BIS規制の国内銀行への適応)

ーー↓以下金融ビッグバン

1998年① 上記規制を守らない銀行を閉鎖するという強力な罰則をつける(早期是正措置)

1998年② 不良債権を定義付け銀行にその処理を強いる

1998年③ 不良債権処理により銀行の自己資本が棄損する

1998年④ 銀行は棄損した自己資本額から逆算される、貸出額が自己資本比率規制による比率を割らないように与信の回収を始める(貸しはがし、貸し渋り)

その後、借金の元金を無理やり回収された企業の業績が悪化。余計に不良債権が増え、それを処理すればするほど銀行の自己資本が棄損されてより多くの与信の回収を必要とするという無限ループに陥り、巨額の信用収縮が発生。

不良債権処理と国内銀行に対するBIS規制の適応、早期是正措置のセットが日本の金融機能を破壊しつくした

この一連の流れで何が起こったかというと、まず企業と銀行の協業関係が壊れます(お互いの信頼関係が保てなくなる)

銀行もBIS規制によって自己資本比率を棄損する企業向けの貸し出しを忌避し、BIS規制によって計算上無視される国債ばかりを買うようになります。

企業は、銀行という後ろ盾を失い、キャッシュフローの冗長性を失います。生き残りのために、コストカットと、内部留保の拡大に邁進することになります。

企業がコストカットした分、税収が下がり、銀行がいくらでも国債を買ってくれるので政府は税収減を国債発行でファイナンスし始めます。
(このコストカットの成果がデフレです)

つまり金融ビッグバンに伴う、一連の政策セットの失策で日本のその後の経済現象が簡単に説明できてしまうのです。

そして、この政策セットは、G7各国から最も厳しいものをつまみ食いして日本政府が自ら適応したもので、欧州はほとんどやっておらず、グローバルスタンダードですらないという現実も知っておく必要があります。

・BIS規制の厳密な国内銀行への適応(欧米は金融商品で回避)
・不良債権の定義(欧州は無し、米は金融商品で回避)と処理の強制
・早期是正措置(米にしかない)

なぜこんなバカなこと全く金融の構造が違う日本に、最も厳しい形で適応したのか?
これは国民に痛みのみを強いたという点から解明と是正が必要かと思います。


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