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【中小企業向け/知財で損をしないポイント】<vol.5>特許が取れた=無条件で実施してよい?

「知財の診断士®」がお届けする、中小企業に知っておいてほしい知財ポイント、第5回目のテーマは、「特許権が取れたことは、発明の実施が認められた訳ではない!」です。

ポイント

◆発明についての特許権の取得と、その発明の実施(製造・販売等)とは、別の問題です。

◆特許権が取れたとしても、実施が制限される場合があります。

◆逆に、特許権が取れない製品であっても、実施してよい場合もあります。

◆発明を実施する上では、先行技術調査を行うことが必要です。

導入編「知的財産で損する社長の決まり文句」はこちら↓

特許権の効力

少しだけ、特許権の効力について前置きです。

特許権の持つ効力として、特許法は、「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。」(特許法第68条)と規定しており、特許権を手に入れれば、その発明を業として独占的に実施できるとされています(特許権の積極的効力)。また正当な権限なしに特許発明を業として実施した他人に対して、実施を中止させたり、損害賠償を請求したりすることができます(特許権の消極的効力(排他的効力))。
参考文献:竹田和彦著「特許の知識・第6版」312頁(1999年)ダイヤモンド社

ただし特許法では、「特許権者は、その特許発明がその特許出願の日前の出願に係る他人の特許発明を利用するものであるときは、業としてその特許発明を実施することができない。」(特許法第72条)としており、自分の特許発明であっても、他人の特許発明を利用する場合は、実施できない場合があることを示しています。

この点について、意外と多くの人が、「自分が特許を取得した製品は、世の中にない新しい発明であることを認めてもらったのだから、自由に実施できる」と誤解されているように思います。逆に特許が取れない場合であっても、実施できる場合もあります。

以下に例を示しながら、説明していきます。

事例説明

他人(特許権者X)が、以下の特許権Xを取得していたと仮定します。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 座面と、脚と、背もたれを含む椅子。

勿論、このような単純な特許権は現在では成立しませんが、あくまで事例ですのでご容赦ください。
ポイントは、椅子の発明において「座面」「脚」「背もたれ」の3つを構成要件とする点です。
以下、特許権Xとの関係において
論点1:新たな特許権は取得できるか?
論点2:発明を実施できるか?

について説明していきます。

論点1:新たな特許権は取得できるか?

あなたが以下の椅子A、B、Cを発明した場合、特許権は取得できるでしょうか?

椅子1

特許A:座面と、脚を備えた椅子。
特許B:座面と、脚と、背もたれを備えた椅子。
特許C:座面と、脚と、背もたれと、肘掛を備えた椅子。

特許Bは、特許権Xと同じ要件で構成されていますので、新たに特許は取れません。

また特許Aの構成要件である座面と脚を含むことは、特許権Xに開示されていますので、これも原則、特許権を取れません。

一方、特許権Cは、特許権Xの構成要件(座面+脚+背もたれ)に加え、「肘掛」を備えることを特徴としています。肘掛を備えたことにより、より快適に座れるようになったのでしょう。このように先の発明に、更なる改良を加えた発明は、従来知られていない発明であり(新規性あり)、容易になし得ない発明であれば(進歩性あり)、特許を取れる可能性があります。

椅子2

論点2:発明を実施できるか?

同様に、特許権Xが成立していた場合、椅子A、B、Cを製造したり販売したりできるでしょうか?

椅子1

椅子Bは、既に成立している特許権Xの要件と同一ですので、製造したり販売したりするなど業として実施すると、特許権Xを侵害することとなり、実施できません。

一方、椅子Aは座面と脚を含みますが、特許権Xの必須要件である「背もたれ」を含みませんので、特許権Xの権利範囲外であり、実施することができます。

椅子Cは、特許権Xの構成要件(座面+脚+背もたれ)に加え、「肘掛」を備えることを特徴としており、同じ発明ではありません。しかしながら椅子Cは、特許権Xの構成要件(座面+脚+背もたれ)を含む製品であるため、権利範囲内であって、特許権Xを侵害することとなります。これが上記特許法第72条に該当し、いわゆる「利用発明」と言われます。

椅子3

まとめ

論点1の特許権の取得の可能性、および論点2の実施の可能性について、まとめると以下の表になります。

椅子4

ご覧のように、特許権Xと同一の構成要件の椅子Bについては、特許権を取得することも、実施することもできません。特許権Xとは同じ発明ですので、これは理解しやすいかと思います。

また座面と脚のみから構成される椅子Aについては、特許を取得することはできませんが、実施は可能です。

一方、座面と脚と背もたれに加え、肘掛まで備えた椅子Cは、特許は取得できる発明であるものの、特許発明Xを利用する関係にあるため実施することはできません。

つまり椅子Cに関して「特許が取得できたのだから、世の中にない新しい発明であることを認めてもらった。だから、誰かの権利を気にすることなく自由に実施できる。」というわけではないということです。
特許権を取得できたことが、発明の実施を保証してくれるわけでなく、製品の上市前には特許調査を行っておく必要があります。これを怠ると、思わぬ損害(差止請求や損害賠償請求等)をもらう恐れがあります。
例えば椅子Aについても、特許権Xとの関係では実施は問題ありませんが、それ以前に別の特許権(座面と、脚を備えた椅子)がないか、調査しておく必要があります。

補足

上記の椅子の例は特許権の取得と製品の実施の可否を説明するための一例であり、全てがこの組み合わせになるわけではありません。現実には、「特許を取得でき、実施もできる」製品を開発する場合が多いかと思います。
(例えば、座面と、脚と、脚の高さ調整機能を備えた椅子)

また椅子Cに係る特許Cが成立した場合、椅子Cは特許権者Xも実施することができなくなります。つまり特許Cを出願することで、特許権者Xの事業を制限することができます。これにより、例えば(特許権Cと特許権Xとの)クロスライセンスによって椅子Cを製造できる可能性が出てきますので、後発企業であっても特許出願を戦略的に行うことは重要です。

特許の成立可否や発明の実施の可否の判断は、専門的な知識が必要となりますので、専門家の助言を得るようにしてください。


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企業での知財経験豊富な中小企業診断士です。中小企業等へ経営に資する知財活動を支援する「たなか知財の診断士事務所」を開業しました。資格:中小企業診断士、知的財産アナリスト(特許)、パラグライダーエキスパートパイロット等