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【中小企業向け/知財で損をしないポイント】<vol.4>特許への過剰反応は禁物です

「知財の診断士®」がお届けする、中小企業に知っておいてほしい知財ポイント、第4回目のテーマは、「特許への過剰反応は禁物」です。

ポイント

◆中小企業は知的財産、特に特許に対してハードルを上げ過ぎる・遠慮するきらいがあります。

◆何気ない改良が、大きな影響力を持つ権利になることもあります。

導入編「知的財産で損する社長の決まり文句」はこちら↓

特許に対する過剰反応

近年、知的財産に関する情報やニュースはあふれており、知的財産は企業にとって重要な資産であると理解されている社長さんは多いと思います。しかし、知的財産を「難しく非常に高度なもの」、「一部のハイテク企業だけにしか関係がないもの」と捉え、過剰にハードルを上げてしまわれる社長さんがいらっしゃいます。特に「特許」については、何か画期的な発明でなければ対象にならない、と考えられ、「うちのような下請け企業では特許出願なんて無理」と遠慮される場合も少なくありません。

しかしながら、特許で保護される発明は画期的なものでなくてもよく、むしろ何気ない発明のほうが重要であったります。

今回は、そんな意識を変えてもらえるよう、世に言う「切り餅事件」を紹介します。

「切り餅事件」とは

正月のお餅といえば、むかしは臼と杵で餅つきをしていたものですが、いつの頃からか真空パックされた切り餅を買うようになりました。師走を迎える頃になるとスーパーでも色々なメーカーの切り餅が山積みされている光景を目にします。

そんなパック入りの切り餅の代表的メーカーである「越後製菓」と「サトウ食品工業」が特許権侵害で争った事件が「切り餅事件」です。

事件は、越後製菓が保有する餅に関する特許権(第4111382号)をサトウ食品工業が侵害したとして争われたもので、最高裁までもつれた結果、サトウ食品工業に対し約8億円の損害賠償が認められました(平成23年(ネ)第10002号特許権侵害差止等請求事件)。またその後、同様の裁判を「きむら食品」に対しても起こしており、約7億8千万円の損害賠償が認められています。



越後製菓の特許のポイントは、切り餅の上下面ではなく側面に切り込みを入れていること、です。この切り込みにより、切り餅を焼いた時の膨化による噴き出しが抑制されて、きれいに焼ける・・・というものです。認可された特許請求の範囲は以下の通りですが、分かりにくいので図面を見てください。

特許第4111382号
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。
【請求項2】
焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状の切り込み部又は溝部を設けたことを特徴とする請求項1記載の餅。

越後製菓

越後製菓2

一方、サトウ食品工業の切り餅は、切り餅の側面だけでなく上下面にも切り込みをいれたものでした。

サトウ食品

この事件では、特許請求の範囲の記載の解釈が争われ、また特許性を否定するための資料の妥当性も問題となりました。特に特許請求の範囲の解釈については、専門家の先生から色々な意見がありますが、本稿でのポイントはその前段階でのお話しです。

特許出願に値する発明とは?

誤解を恐れずに言えば、餅に切り込みを入れることを、画期的な発明であると考える人は少ないと思います。似た様なことは、以前から誰かがやっていたのでは?と考えても不思議ではありません。まして特許の対象になる発明であると考える人は少ないでしょう。でも現実には越後製菓は特許出願を行い、審査を受けて特許として認められ、後発企業の商品に対して差止や15億円もの損害賠償が認められる、という大きな成果を残しています。当時の社内状況等はわかりませんが、個人的には出願することを判断された越後製菓の知財担当者さんのファインプレイだと思います。

特許として認められるには「新規性」や「進歩性」が必要ですので、なんでもかんでも特許になるわけではありませんし、そもそも特許法で定める発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条)です。しかしながら切り餅事件は、身近なちょっとした工夫であっても、特許として認められる可能性があることと、その意義を教示してくれています。

また難しい技術は真似することも困難ですが、真似しやすい簡単な発明の方が実は市場への影響力は大きいと言えます。さらに目視で確認できるような発明であると、第三者の模倣を発見しやすくなりますので、権利行使が容易になります。例えば、「餅の成分」で特許権を取得できたとしても、相手方の商品を分析しなければ権利範囲に含まれるかどうか分かりませんし、「餅の製造方法」で特許権を取得できたとしても、相手方の工場に立ち入らないと権利範囲に含まれるかどうか分かりません。今回の切り込みを要件とする特許は一目瞭然であり、目で見て分かる(侵害立証性の高い)発明の権利化は非常に有効と言えます。

そんな何気ない改良は、大企業より中小企業さんのほうが得意なのではないでしょうか?ぜひ特許へのハードルを下げて頂き、自社の強みや特徴・こだわりの中に知的財産が眠っていないか、確認頂ければと思います。

なお、「切り餅事件」についてはインターネットでも色々な評論がありますが、稲森謙太郎先生の著書『すばらしき特殊特許の世界』196頁~213頁に詳しくかつ分かりやすく紹介されています。他にも色々な事例が紹介されており、特許を身近に感じることができると思いますので、ご一読されることをお勧めします。


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企業での知財経験豊富な中小企業診断士です。中小企業等へ経営に資する知財活動を支援する「たなか知財の診断士事務所」を開業しました。資格:中小企業診断士、知的財産アナリスト(特許)、パラグライダーエキスパートパイロット等