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福岡県の香椎にアイランドシティができる前の話

小学生の頃、通学路に流れる川には洗濯機や自転車などが不法投棄がされていました。生活排水も垂れ流され、洗剤か油で虹色になったヘドロ臭いドブ川です。当時は当たり前の光景でした。

92年、冬。うっすらと雪が舞う中、私を含む少年5人は香椎浜という小さな浜をうろついていました。

すると防波堤の方から「おーい」という声。
見ると、自転車に乗った作業服姿の初老のおじさんがこちらに向かってくるのが見えました。浜に降りてきたおじさんは、
「お前たち、ここで遊ぶのはよかばってんがゴミば拾うていかないかんぞ。よし、今から5分間ゴミ拾い!」
「ええ!」
私たちは渋々缶や瓶、スチロールや魚網などを拾い集めました。
「断ったら何されるかわからん」「すぐ終わるやろ」とヒソヒソ。

5分後、「はい集合」とおじさん。
やっと終わったと思っていると、
「今からワシが校長先生じゃ」
「は?」
「いいけん、ここに並べ」
私たちは波打ち際に一列に並ばされました。

おじさんは沖を見ながら、
「あそこに人工島ができる。暮らしは便利になるが、ここの干潟に住む野鳥の住処はなくなるな…これをお前たちはどう思うか。」

僕らに緊張が走りました。答え方を間違えたら何をされるか。
でも全員が海を向いているので相談もできません。

右端の友達が「わかりませーん」とぶっきらぼうに答えました。
次の友達も「わかりません」と続きました。
「わかりません」
「わかりません」
「わかりません!」
私を含めてあとの3人もわからないと答えたその時、

「ワシもおお、わからんんっ!!」と大声でおじさんが叫びました。
「…!!」

少し間があって、フーッとため息をつき「こげな時間か。君達もう帰りなさい。明日もこの時間に集合な」と言って自転車にまたがり去っていきました。

「なんやあのオヤジ」「鼻毛が炸裂しとったな」
「耳毛もすごかった」「明日も?誰がいくか」
「帰ろうぜ」
私たちは安堵に包まれながら解散しました。

あれから30年、今の香椎は便利で綺麗です。汚染が当たり前だった時代におじさんは私ら子供に問題提起してくれました。あの体験以来、私は環境問題に興味を持ち、ゴミの4Rや脱プラスチックをいつも意識しています。でも環境を意識しながら生活していると便利さとの間で矛盾にぶつかります。その時はいつもおじさんの「ワシも、わからん!」という言葉を思い出し葛藤する毎日です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。







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