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過去を捨てたら未来まで失くしてしまいました。

断捨離って、気持ちいいんだ。それだけなんだ。


退院が近付くにつれ、自殺への期待感とは別に、新たな思いが生まれた。
「新しい自分になるんだ」
といういかにもサムくて月並みな有象無象の言葉。
決断日まで日はある。それまではこの入院をキッカケに「違う自分」として新たな人生を生きようと思った。
そうして人生が変わるような劇的な出来事や出会いがあれば、それはそれで結果オーライなんじゃないかと。


僕は過去に固執する人間だった。
思い出に浸り、保守的な思考で時が流れるのを嫌った。
故に、過去に縛られていた。

そうではない、もう今までの僕とは違うんだと振り切りたかった。
過去の呪いから逃れたかった。

そして退院し、とにかく捨てた。
過去を断ち切りたかった。
写真を捨てた。
服を捨てた。
黒い髪を捨てた。
習慣を捨てた。
教科書もノートも、独り暮らしで得た知恵や知識、家具や家電全部捨てた。
親、友達の連絡先も、それに付随した思い出も全部、全部捨てた。

そうすると目の前には何もないが残った。
いわゆる空っぽだった。
困った。
すごく困った。

就職に向けた知識も教科書ノートがなければ何も思い出せない。
リフレッシュしてどこか遊びに行こうにも人脈一つない。
心を癒す思い出になる写真も消えた。
退屈でも僕には今しか存在しなくなって

立ち上がるためのあらゆる方法は、過去に付随して

過去は、未来へ繋がっていたのだ。
未来へ生きる手立てとなるのはいつだって過去からの贈り物だ。
雑念になるしかない過去を捨ててキレイさっぱりしたつもりが、途端に未来への有効な手段を失ってしまったのだ。

ただ一つ捨てられなかった人格が激しい後悔にのたうちまわり、頭の中で叫び狂ってえんえんと悲しんでいる。
もう生きられそうにない。
ああ、ああ、私は全てを失った。
違う。私から全て捨てたのだ。
もう私は、私を捨てるしかないところまできてしまった。
これ以上もう、何も失わないように。

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