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文芸部部誌 1号

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Twitterで知り合った有志で作った、文芸部の部誌です。 皆の個性が爆発してる作品ばかりですので、宜しければ見て言って下さい。
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#文章

聖女の呪い(5)

聖女の呪い(5)

昼食を食べた双子はトゥレプの手伝いとして、乾燥させた薬草を薬研で細かくしたり、色々な薬を小瓶に詰めたりと、獣の足で器用に手伝いをしていた。

そんな風に作業をしていると、あっという間に日が落ちた。その途端、トゥレプの姿が溶けるようにアナグマへと変わっていく。着ていた服がその場に残らず消えてしまうのが不思議ではあるが、皆毛皮に変化しているのだろうとあまり気にしていない。

「さて、日が暮れたね。お月

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聖女の呪い(4)

聖女から受けた呪いによって、身動きの取れなくなってしまったカントとアトゥイは、仲間たちの手によってトゥレプの小屋まで運ばれたのだった。

トゥレプの小屋には闇の結界が張られているおかげで、ぐったりとしていた双子たちはたちまち元気を取り戻した。

「おばば、あの人間は一体なんなの!?」

「憐れな…とか言いながら、いきなり魔法をかけてきたんだよ!」

「そしたらいきなり人型が溶けて、狐の姿に戻っちゃ

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聖女の呪い(3)

聖女の呪い(3)

双子やトゥレプの棲むこの森は、太古の昔から魔力と呼ばれる力が満ち満ちている場所なのだ。500年ほど前、この膨大な魔力に目を付けた人間たちは、自分たちだけがその力を使えるようにと、この地に結界魔法をかけ、人よりも多く闇属性の力を持つ、魔族やエルフ、ドワーフや精霊と呼ばれる者たちが立ち入れないようにしてしまったのだ。

しかし、この魔法の影響はそれらの亜人種たち以外にも影響を及ぼした。それが森に棲む動

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聖女の呪い(2)

聖女の呪い(2)

双子は香ばしい美味しそうな匂いで目が覚めた。鼻をヒクヒクと動かす。

匂いのする方へ目をやると、一人の老婆が竈にかかる鍋をゆっくりとかき混ぜていた。

「おや、お前たち目が覚めたね」

「オババ、おはよう」

先に起き上がったカントが、前足で器用に目をこすりながら、寝ぼけ眼で挨拶をした。
この老婆は今朝がた、双子をこの切り株小屋へ招き入れたアナグマだ。しかし、カントとアトゥイは狐の姿のままである。

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聖女の呪い(1)

聖女の呪い(1)

まだ夜の明けきらない群青の空の中、山の麓に深く広がる針葉樹の森の中を、双子が下草を踏み分けながら歩いている。

明るい赤黄色のつやつやした毛並みに大きくとがった耳、ガマの穂のような太いしっぽを持つキツネの兄弟だった。

「アトゥイ、早く夜露を集めてしまおう。朝日が昇ってきてしまう」

カントはそう言いながら、器用に夜光草の葉にたまる夜露を透明な硝子瓶へ集めていく。

「わかってるよカント」

先に

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白亜の星

白亜の星

ーこれからボイスメッセージとして我々の事を話していこうと思う。ここに我々が来たという証拠としてー

さて、最初から話していこう。我々は人口爆発により環境の破壊されつくした母星アクリスを脱し、人の住める星を求めて何百光年も先の宇宙へと漕ぎ出した移住計画船の一隻だ。共に旅立った船達は、一隻また一隻と別れて行った。果たして彼等は第二の母星となる惑星を見つけることが出来たのだろうか…。

我々の船も食糧が

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紡いで埋める

紡いで埋める

真っ白な原稿用紙のマスが、どんどんと埋まっていく爽快感がたまらなく好きで、作家としてデビューしてから15年、ずっと手書き原稿で書いてきた。

万年筆にインクを吸わせていると、徐々に言葉を紡ぐ気持ちになっていくし、インクが切れると今日は書いた!と実感できるのも良い。

この万年筆は、デビューが決まった時に父が祝いとして贈ってくれたものだ。当時はひたすら物語を書くのとバイトに追われ、連絡をする事も実家

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