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パイを切り分ける毎日だ

子育てを始めて気づいたことがある。「毎日の生活は、パイの奪い合いである」ということ。パイ投げが楽しい──という話ではなく、毎日のリソースは有限である、いう意味だ。

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私の「パイ」は、1子育て、2仕事、3趣味、という三要素がメインとなり構成されている。

どれかに時間を使うと、他のどれかに使う時間が減る。それだけではない。どれかに時間を使うということが即ち、他のどれかを疎かにすることにつながる、と感じられてしまうのだ。

例えば今、(そろそろ寝そうな)子どものそばでnoteを書いている。趣味の時間。でも、「この時間を使って子どもと遊んであげたほうがよいのではないか」「絵本をよんであげたほうがよいのではないか」──という罪悪感と常に隣り合わせになっている。同時に、「この時間で仕事ができるのではないか」「情報収集する時間として使えるのではないか」という考えも、脳裏にちらつく。

子どもと遊べば、仕事と趣味が疎かになり、
仕事をすれば、子どもと趣味が疎かになり、
趣味をすれば、子どもと仕事が疎かになる。

文字通り、割り切ることが難しい。

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この話は子育てあるあるかもしれない。しかし本来は子育て期に限った話ではない。私の日々のリソースは昔からずっと有限だったが、有限さを意識する必要がないぐらい余裕があったのだ、と気づく。

もしも、「子ども=趣味」か「子ども=仕事」か「仕事=趣味」と考えることができれば、切り分ける要素が減って気分がぐっと楽になるだろう。

でも今の私にはそれが難しい。
子どもと触れ合う時間は、ただそれだけのために大切で、
仕事をして成長する時間は、ただそれだけのために大切で、
趣味を通じて学ぶ時間は、ただそれだけのために大切だ。
そのうち二つ(あるいは三つ)を合体させる気分にはなれない。

だからせめて、それぞれの時間の濃度をぐっと濃密にし、味の濃いパイを毎日食べればいいんじゃないか?と考えてみる。トータルのカロリーが増えて、満足できるかもしれない。

その考えは確かに正しい。でも、どんなに美味しかろうと濃い味が続くと胃がもたれるように、濃密な時間の連続は知らず知らずのうちに心と体を疲れさせる。

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「子育てをしながら、どの程度(在宅で)仕事ができるのか?」

出産前の私が抱いていた疑問だ。この疑問に答えるならば、「やろうと思えばそれなりに仕事ができる」となるだろう。

「ただし、子どもが泣いてもおかまいなしで、子どもがかまってほしそうにしていても放置し、子どもとちゃんと遊んだり絵本を読んであげたりスキンシップをする時間もとらなければ」という但し書きつきで。

実際にそのような鈍感さはある程度重要で、だからこそ、鈍感な私はあまり追い詰められずに子育てができているのだと感じる。でも「今の時間をこの用途に使うことが本当に正しいのだろうか?」という疑問は、常に抱いている。

子どもの成長を思えば、できるだけ一緒に触れ合っていたいし、
仕事の充実を思えば、できるだけ仕事に時間を使いたいし、
自分の精神的安定のためには、できるだけ読書をしたりnoteを書いたりしたい。

「『何か』に夢中になるあまり、他の『何か』を疎かにしてしまった」という後悔をするのがとても怖い。だから今、中毒性をもつ趣味は意識的に避けている。TwitterのようなSNSもその一つだ。

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問題に対して早急に結論を出したいわけではない。「こうしたら楽になるよ」というノウハウで片付けるのではなく、根幹に潜んでいるものを追究したいからだ。

色々な困難があってもなお「子育てが楽しい」と言えるのは、全てをひっくるめて考えた時の謎、あるいは心理の仕組み、人間の哲学──を考えることが好きだからだと思う。

「この悩みの中でも私は発見し、成長している」という実感をもち、発見というピースを一つ一つ文章化し刻みつけながら道のりを歩むことは、なんとも魅力的な営為なのだ。

自分でおこなった貴重な省察は、できるだけ早く書きとめておくべきである。これは、当然な心がけである。われわれは自分の体験でさえ時には忘れてしまうのであるから、まして自分が思索したことは、どれだけ忘れ去るかわからない。それに、思想というものは、われわれの望みどおりの時にやってくるものではなく、気まぐれに去来するものなのである。

哲学するために最初に求められる二つの要件は、第一に、こころにかかるいかなる問いをも率直に問い出す勇気をもつということである。そして第二は、自明の理と思われるすべてのことを、あらためてはっきりと意識し、そうすることによってそれを問題としてつかみ直すということである。最後にまた、本格的に哲学するためには、精神が本当の閑暇をもっていなくてはならない。

いずれも、ショーペンハウアー『知性について』

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