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【読書】のマガジン

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#読書感想文

読書感想文一覧【随時更新】

noteに投稿した読書感想文が増えてきたので、自分の整理も兼ねて一覧にしてみました。随時更新します。脱線している場合も多いですが、気になる本があればぜひ読んでみてください。 2022年■アミール・D・アクゼル『「無限」に魅入られた天才数学者たち』 ■有元葉子『レシピを見ないで作れるようになりましょう』 ■ジョージ・オーウェル『一九八四年』 ■ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』 ■日高敏隆『ネコの時間』 ■加藤文元『人と数学のあいだ』 2021年■志賀直哉『暗夜行路』

📕「無限という概念には、人を怯ませるものがある」

■アミール・D・アクゼル『「無限」に魅入られた天才数学者たち』 「無限」の恐怖 私が無限をはじめて知ったのは、宇宙であった。「宇宙は無限の広さをもつ」──この表現が現在の物理学において正しいかどうかは微妙だが、少なくとも私の幼い頃はそう教わった。 しかし、何かの大きさが無限である、という言葉の意味がどうしてもわからなかった。その状況を頭の中で描くことは不可能だった。本気で描こうとすれば、身体が四方八方から引っ張られるような不快感が襲い、恐怖心が想像力を制止するのだった。

読書のエッセンスと、秘密の美術館

過去に読んだ本の「エッセンス」とでも呼ぶべきものが、頭に浮かぶことがある。本のタイトルを読み上げたときに、ただその情景だけが、あるいはその概念だけが、静止画のように浮かぶのだ。 例えば、フランクル『死と愛』を考えるとき、著者が唱えた「三つの価値」、その中でも「態度価値」が、強く浮かんでくる。それ以外の話はあまり思い出せない。しかし「態度価値」については事あるごとに考えを巡らす。 また例えば、志賀直哉『暗夜行路』で主人公が自身の子を失うシーンが、ガルシア=マルケス『エレンデ

【読書】大さじ1の味を知り、強火で2分の色を知る

■有元葉子『レシピを見ないで作れるようになりましょう。』 ・・・ 料理の特訓を始めたのは、まさにこの本のタイトルにあるように「レシピを見ないで作れるように」なりたかったから。以下に少し、前置きを。 私が思う料理の“めんどくささ”のナンバーワンは「メニューを考えること」だ。これは多くの人に共感してもらえるのではないだろうか。中には、夫婦の家事分担において「メニューを考えること」を夫の役割としている人もいるらしい。 そして「メニューを考えること」のめんどくささを突き詰めて

【読書】私たちの思考は言葉に縛られているのだろうか?

■ジョージ・オーウェル『一九八四年』 ・・・ 2022年2月に始まった戦争が語られる際に、しばしば引用されるディストピア小説。私がこの本をブックオフで手にし読了したのは、戦争が始まる直前のこと。全く別のきっかけであった(詳細は「編集後記」にて)。 とても有名な小説で、重く長いストーリーでありながら一気に読ませる迫力がある。そのあらすじについても語りたいことはたくさんあるのだけど、私の心に深く刻まれているのは「付録」、つまりおまけの部分に書かれた内容だ。 『一九八四年』

【読書】エンタメ“謎解き”ミステリーはなぜ売れたのか

■ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』(ネタバレなし) 📖 言わずと知れたベストセラー。もう15年近く前になるだろうか、とにかく大ヒットしたことを覚えている。私の母は流行りの小説を読みたいタイプの人で、母が買って読んだ単行本を私も借りて読んだ。その数年後、母と二人でパリを旅行した際に、ルーブル美術館ですごーくワクワクしたのは言わずもがなである。 なぜ再び手に取ったのか……は自分でもよくわからない。ストーリーは忘れてしまっていたものの「圧倒的なハラハラドキドキ感」が心に

【読書】「生物多様性というとき重要なのは、種の多様性ではなくて『生きる論理』の多様性である」

■日高敏隆『ネコの時間』 ── 自慢ではないけれど、私は「生物」という教科にけっこうな苦手意識がある。 高校生の頃、文系コースを選択すると有無を言わさず全員が(理科のうちでは)生物を選択させられた。詰め込み教育の弊害か、はたまた不真面目な生徒でちゃんと聞いていなかっただけかもしれないけれど、生物の授業では「理由」の説明が少なかったように思う。この世界に多種多様な生物が存在することの神秘性は理解できた、でも「なぜそうなるのか?」を欠いた現象や用語の羅列が、ただの暗記に思え

【読書】数学者が抱く孤独と夢

■加藤文元『人と数学のあいだ』 新刊本はふだんあまり読まないのだけど、以前から著作を愛読している数学者・加藤文元さんの新作ということで、買ってみた。 数学者(加藤さん)と、数学者「ではない」4人との、一対一での対話をまとめた一冊である。4人はそれぞれサイエンス作家(物理学専攻)、小説家、精神科医/脳科学者、IT関連企業の社長──という肩書きをもつ。 すらすら読める分量と内容なので、もし文庫化するなら急いで読まなくていいかも……というのが正直な感想。でも、「数学者×異分野

2021年の三冊

今年も残り数時間。師走は年々短くなるようです。 引き続きのコロナ禍や東京オリンピックなど社会的な波が多く、また個人的にもビッグウェーブに飲まれた一年でした(その話は年明けに)。そんな2021年、特に印象的だった三冊を紹介します。 一冊目|リチャード・P・ファインマン『ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上・下〉』ノンフィクション/エッセイから、こちらの一冊(厳密には上下で二冊)。 なんといってもファインマンさんの愉快で前向きな人柄に惚れました。かつ純粋に面白く、何度も笑い

「お前は俺より不幸な人間だ。然し性格的にいうと、遥かに幸福な人間だと思う」

■志賀直哉『暗夜行路』 ── 先日、広島県尾道市を弾丸で訪れた。その際に泊まったホテルのすぐそばに志賀直哉の旧居があった。『暗夜行路』が執筆された(もしくは構想が練られた)場所だということで、この本を手にとってみた。 志賀直哉は寡作な作家で、長編はこの作品しかない。私は以前、短編集『小僧の神様・城の崎にて』を読んだことがある。死んだ父が志賀直哉を好きだったらしい、と死後に知ったからであった。けれどもそのときは、正直あまり面白いと思わなかった。 しかし今回の『暗夜行路』

脳にこびりつくラストシーン

■ガブリエル・ガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』 この短い小説は、上のような一文で始まる。殺人事件の真相を追うミステリー風のストーリーでありながら、冒頭で「誰が殺されるか」わかってしまう。 殺されるのはもちろんこのサンティアゴ・ナサールという男性だ。 では、なぜ彼は殺されたのか?誰に、どうやって殺されたのか?──実はそれすらも比較的早い段階でわかってしまう。 じゃあ、この小説は一体何が面白くて読むのだろうか? 読んで感じる面白さは人それぞれなので、以下に書く

「人生と愛と死の三つだけだよ。それ以外のものはすべてその三つに含まれているんだ」

■ガブリエル・ガルシア=マルケス『物語の作り方』 状況は三十六通りあると言われるけれども、実際はそんなにないんで、人生と愛と死の三つだけだよ。それ以外のものはすべてその三つに含まれているんだ。(P.250) よく内容を知りもせず、ほぼタイトル買いだったこの本。 読んではじめて知ったのが、ガルシア=マルケスが脚本家でもあった、という事実。私がこれまでに読んだのは『エレンディラ』の一冊のみで「純文学の人」というイメージが強かったから、(ドラマの脚本も書けるような)大衆的な感

「生きたまま死ぬ」という止まない妄想

■エドガー・アラン・ポオ『ポオ小説全集 1』 ポオ小説全集は、全四巻。まとめて買って3巻と4巻を先に読み(下の記事)、しばらく間があいてしまった。 今回読んだ1巻はポオの作品のうち最初期のものを集めていることになる。結果としてあまり有名でない作品が多い。もっとも有名なのは『アッシャー家の崩壊』だろうか。 3、4巻に比べると、物語のキレやまとまりが少し弱めという印象だったが、相変わらず「よくこんな設定思いつくよなぁ」と感心する。 特に忘れられないのが『ハンス・プファルの

どこかに置いてきたセンチメント

■吉本ばなな『キッチン』 夏が始まる前に、新潮文庫の2021年版プレミアムカバーをまとめ買いした。 そのとき本屋に唯一置いてなかったのが、この『キッチン』。オレンジ色の表紙に箔押しフォントは黄緑色という、人参カラー(?)。可愛らしい色合いに「うむ、久しぶりに吉本ばななでも読んでみようか」と追加購入した(……のもだいぶ前の話だけど)。 吉本ばななといえば、装丁が可愛い。『TUGUMI』の単行本が気に入って、(内容はあまり覚えていないのだけど)大切に本棚にしまってある。