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夫婦すれ違いの効能

夫はテレワークが基本で、出勤するのは月の4分の1くらい。だが、出勤すると帰宅は遅い。

ここ最近は、連日23時近くが続いている。実のところ、私は先に寝てしまうので、正確な時間はわからない。日をまたいでいることも少なくないかもしれない。

帰宅が遅い日が続き、かつ朝早く出勤する日が重なると、何日かほとんど姿を見かけないこともある。職業や勤務スタイルによっては、そういう夫婦も案外多いのかもしれない。

姿を見ない人と、一つ家の下に住むというのは不思議な感じだ。そこにいたんだろうなという、ぼんやりした気配が家のあちこちに残っている。

寝る前に玄関に並べておいた靴が、微妙にずれている。疲れて帰った夫が、暗い玄関でつまづいたかな。

寝る前に空っぽにしておいたキッチンのシンクに、コップが1つ置かれている。お茶だけでも、と朝飲んでいったのかな。

寝る前にきれいに片付けたソファテーブルの上に、アーモンドのかけらが落ちている。深夜に食べるのは身体に悪いと思いつつ、つまんじゃったのかな。

そんないくつかの「かもしれない」で、私が寝ている間に、夫が確実にこの家にいたことがわかる。

それはきっととても幸せなことだ。

あわよくば、毎日「おかえり」「いってらっしゃい」の言葉を交わしたい。手の届く距離でぬくもりを感じて眠りにつきたい。でもそれは、ほんとにすごく贅沢なことなのだ。

ここ最近、すれ違いの生活が続いていて、「あぁ、そうだよね、あっちのほうが奇跡の日常だったんだ」と思い出す。

思い出して、忘れて、思い出して、忘れる。その繰り返し。

また忘れるくらい夫の顔を見れる日常が、早くこないかな。


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