スープを作るときに大切なこと/『それからはスープのことばかり考えて暮らした』 #読了
失業中の“僕”はひょんなきっかけで知った、サンドウィッチ屋さんの美味しさに魅了され、
それから僕はサンドウィッチのことばかり考えている。
生活の中心に組み込まれた映画館通いのある日、すごく良い香りのスープを飲む初老の女性に出会い、
それからしばらくスープのことばかり考えていた。
通いつめたサンドウィッチ屋さんで働くこととなった“僕”は、サンドウィッチに合うスープを作ることなり、それからはスープのことばかり考えて暮らすようになるのだ。
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この物語の登場人物はとても少ない。
主だって登場するのは主人公と、アパートの大家さんであるマダム、サンドウィッチ屋のご主人、その息子。
それから映画館で会う初老の女性。
きっと小さな町なのだろうと思う。
必要最小限の小さな町で、でも、住んでいる人たちにとっては充分満たされた町。
美味しそうなサンドウィッチも、大半を占めて試行錯誤して作られてゆくスープの描写もとても魅力的だ。
だけど、それ以上のその美味しそうな料理の周りをゆっくりと歩きながらぽつぽつとおしゃべりしているのだろうな、と思わせる読後の空気感がたまらなくすきだな、と思う。
ぼんやりするあまり、ぼんやりと妙な曲を頭の中で鳴らし、ぼんやりしているうちに、その旋律がすっかり消えてなくなっている。消えてしまったことにも気づかなくて、次の「ぼんやり」が、また別のメロディーを呼び込んで、それ以前の繰り返しは、なかったことになる。
まるで僕は「ぼんやり」した帽子をいつもかぶっているみたいだ。<ぼんやり帽>とでも言えばいいのか。すっかり頭になじんでかぶっている感覚もない。(本文より)
読み進めていくうちの「これはどうなるのだろう」とちらちらと気になる謎。
それは最後まで読んでもはっきりと解決されるわけでもない。
でもそれ自体丸ごと受け止めてじっくりと日常が重なっていく大らかさにこちらまで「まあそれでも良いかな」と思えてしまうから不思議。
なんだか最近余裕ないかも、と焦っているときに読みたい一冊。
もっともっと新しい世界を知るために本を買いたいなあと思ってます。