男ともだちのコピーのコピー

そこはあたたかくてほっとする場所/『古道具 中野商店』

岡山県を訪れたときに古道具屋さんを見つけた。

骨董屋さんと古道具屋さんの違いはわからないけど、どことなくくすんだモヤのかかったような店内や、黄ばんだ古い本独特の香りが妙に懐かしくて落ち着く店。

店内では、店員さんたちが売り物でもあるソファーに腰掛けて雑談をしていた。サボってる、という感じではなく、どこまでもラフな感じでなんだかそのゆるい空気感も相まって、心置きなく品物を手にとっては見ては歩いた。

今日読んだ川上弘美さんの『古道具屋 中野商店』は、そんなお店の空気をまるごと閉じ込めたような小説だった。

【あらすじ】
東京近郊の小さな古道具屋でアルバイトをする「わたし」。ダメ男感漂う店主・中野さん。きりっと女っぷりのいい姉マサヨさん。わたしと恋仲であるようなないような、むっつり屋のタケオ。どこかあやしい常連たち……。不器用でスケール小さく、けれど懐の深い人々と、なつかしくもチープな品々。中野商店を舞台に繰り広げられるなんともじれったい恋と世代をこえた友情を描く。(Amazonより)

ひとつの章ごとにひとつの古道具が登場して、それが物語の鍵になったりならなかったりする。

小さな事件も起きるけれど、あくまでも描かれているのはゆったりとした登場人物たちの描写で、なにがよかったってみんなの会話がとてもリアルだった。

「物語」ではあまりしないようなセックスのはなしや、大家さんに嫌われているはなしや、おいしくはないけど買い続けてしまうケーキ屋のはなし。

小さな事柄の小さな部分を話すことでやたらとリアルで、ああ、こういう会話わたしも誰かとしたことある、と容易に想像することができた。

頭のなかで勝手に動き回って、話し出してくれるのでつるつるとページが進む。

いつまでもこうであってくれたらいいのに、とふと少なくなった左手の薄さに悲しくなってしまった。

わたしが訪れて勝手に頭のなかでモデルにしているあのお店でもこんな関係であればいいな。こんなやりとりがわたしが見て回っていた背後でされてたらいい。

だってとっても穏やかで、落ち着く、物語に出てきてもおかしくないようなお店だったから。


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