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ぶきっちょのおせっかい/『大おばさんの不思議なレシピ』

自分でも不思議なもので、以前このブログで『霧のむこうのふしぎな町』を紹介するまで、この『大おばさんの不思議なレシピ』のことをすっかり忘れていた。

読んでいるなかで、なんだかこういう女の子知っている気がする、と思い作者の名前を検索しタイトルをみて思い出したのだった。

「ああわたし小さいころ、この本のことだいすきだったな」って。

『レシピ』とか『ハーブ』とか『花言葉』とか、あとは『魔女』や『神話』とかそういうものが絡んだ物語がだいすきだった。

こういうものを羅列するとすごく女の子っぽくて笑ってしまうのだけど(木登りや缶蹴りも同じくらいだいすきだった)、読み漁るジャンルのいっときのブームとして、このあたりの物語を探しては読んでいる時代が確かにあったのだ。

そのうちの一冊がこの『大おばさんの不思議なレシピ』だ。

この本の主人公は自他共に認めるぶきっちょの美奈。

物置で見つけた大おばさんのレシピを見つけて、見よう見まねで料理や手芸に挑戦すると、それを必要としている不思議の世界に飛ばされて…。

というお話だ。


大おばさんのレシピには料理から縫い物、編み物などいろいろなものが載っていて、そのネーミングにどれもうきうきしてしまう。例えば料理の項目はこうだ。

<竜の枕>は、四角のパンプキンパイ。<妖精のスケートリンク>はチーズケーキ。<雪の女王のブローチ>は、ドーナツをバラの花の形にして砂糖をふりかけるらしい。<幽霊のサッカーボール>は、球状のシャーベット。

思わず、引き込まれるような名前ばかりだ。

その中で美奈は、星の模様入りの巾着袋を作れば、実際に星を拾い集める世界、クレープを作れば、それをパックにして使う魔女の世界に飛ばされていき、持ち前のお節介で、必要している人たちを手助けしてあげていくのだ。

作成者と不思議の世界をつなぐ仲介屋「ドクヌマ」とのやりとりもついついくすっとしてしまう。

その中でも、わたしが特にお気に入りなのは『姫君の目覚まし』だ。

風邪を引いているお母さんのためにしょうが湯を作ってあげた美奈は、おとぎ話に舞台裏の世界に行くことになった。そこで、出会ったのは誰にも読まれていないおとぎ話に出てくる悲劇のお姫さま。「誰にも読まれていないんだったら、いっそハッピーエンドに変えちゃえばいいじゃないの」とお姫さまをけしかけた美奈は物語を変えるために自らも飛び込んで…。

なんとなく作られていくどんなお話にも命があるんだな、と全ての物語がちょっとだけ愛おしくなるお話だ。

美奈は、洞窟のまえに立っていた。美奈の手を。白い長ひげのおじいさんが、にぎって泣いている。
「よくぞわしのことを思い出してくだされましたなあ。わしは、この物語のはじまりの一節、『北の山に住む魔法使い、シュリーンが見下ろす湖のほとり』、ただ、作者が思いついて書いただけのために存在しますのじゃ。ただ、ここにいるだけですのじゃ。』


この物語は、作中に細かな作りかたが書いてあるわけではない。

だから、具体的にはどういうものを美奈が作ったのか想像することしかできないので「レシピ系ものがたり」として読むのであれば、イメージとは少し違うかもしれない。

だけど、あまりに忠実に作ってしまうと不思議な世界に行くことになってしまうから、それもあえてなのかもしれないな。


こんなふうにして、思い出して読む物語はとても良い。

また、思い出して読み次第、書いていきたいと思った。

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