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小さな革命者たち/『斜陽』太宰治

読んでいてどこがが捻れていくようなぐにゃりとした感覚に襲われた。

登場人物全員が己の中にだけ確かな正義があり、それに乗っ取って全員が確実に、静かに破滅してゆく物語だ。



『日本で最後の貴婦人』である、お母さまと娘のかず子。父が亡くなったのち、ふたりは優雅な、おままごとのような生活を送っていた。そこへ戦争へ行き行方不明になっていた、弟の直治が帰ってくる。

思うと、その日あたりが私たちの幸福の最後の残り火の光が輝いた頃で、それから直治が南方から帰って来て、私たちの本当の地獄がはじまった。

まともな人はいないのか、と思う。途中まで、浮き世離れしすぎている病弱な母と、どうしようもない弟に挟まれる苦しい姉の手記を読んでいるのかなと思っていたのだけど、とんでもなかった。

かず子さん、それは、ちょっと…と、読んでいるこちらが痛くなって来てしまうような恋文をまあしたためる。

それも3通も。

きゅうううとお腹が痛くなるような恋文エリアがすぎると、ついにお母さまとのお別れがやってくる。

美しいひとはきっと死に顔も美しいのだろうな、と思った。むしろ、煩わしいすべてのものから解き放たれてやっと幸せになれるのかもしれない。

生きているお母さまより、なまめかしかった。

そしてまたやってくる、かず子のターンである。このあたりからはもうちょっと清々しくさえなってくる。

戦闘開始。
いつまでも、悲しみに沈んでもおられなかった。私には、是非とも、闘い取らなければならないものがあった。新しい倫理。いいえ、そうは言っても偽善めく。恋。それだけだ。

ここの4行、むちゃくちゃにかっこよくて痺れる。こうまで振り切ってしまうと強いんだろうなあ。

そしてそのままの勢いで、かず子はついに東京へ乗り込んでいくのだ。



最後、かず子が思ったことは何だったのだろうか。

恋をして。小さな革命を起こして。

ひとりぼっちになり、誰も彼も彼女を置いていって。

かず子に残されたものは何だったのだろうか。

マイ・チェーホフ、マイ・チャイルド、マイ・コメディアン、、と変わっていくM・Cが何だかほろ苦く感じてしまう読後感だった。



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