今度の休みはあの物語の舞台に行こうか
好きな物語のジャンルは?と聞かれると「ファンタジー」と答えることほぼ200%のわたしだけど、それはもう間違いないのだけど、ひとつだけ困ってしまうことがある。
それはわたしは読んだ物語にすっごく影響を受けやすいこと。
登場する食べものはすぐに食べたくなってしまうし、舞台になる場所は旅行にかこつけて行きたくなる。
ファンタジーの作品は大好きだけど、空想のものが多すぎて再現しようがないのだ。だから読んだときのうずうずを、ずっとうずうずしたまま温め続けてしまう。
現代を舞台にした作品はその点、とても良い。
中学生のときに初めてひとりで出かけた場所は『耳をすませば』の聖蹟桜ケ丘だったし、ひとりでヨーロッパを旅したときも『のだめカンタービレ』の舞台になった場所を探してきゃーきゃーしてた。
そんなわたしが最近いちばん興奮して読んだのが『東京會舘とわたし』(著:辻村深月)だ。
恥ずかしながら「東京會舘」という場所に行ったことがなかったので、読み始めたときは実在する場所だと思わなかった。
タイトル通り、このお話は東京の丸の内にある「東京會舘」に関する思い出を持った登場人物たちのオムニバス形式の物語だ。
上下巻と分かれているのだけど、東京會舘が立て直しによって生まれ変わった部分で分かれている。上巻が旧館時代、下巻が新館時代。
そしてざっくり時系列順にお話も進んでいく。つまり、登場人物たちを通して東京會舘の歴史を追っているような気持ちになれるのだ。なので、立て直しになってしまうときは「ああ寂しい…」だなんて厚かましくも思ったりした。行ったことないくせに。
出てくる人物たちは、従業員であったりお客さんであったりお互いに関わりがあるわけではないが、例えば前の話では一介のボーイであったあの人がちょっと後の話では出世してまた出てくる…なんてこともあり、読んでいてちょっとにやにやできるところが嬉しい。
さらに、実在する場所を舞台にしているので、実在する人物がかなりの頻度で登場する。日本が連合国の占領下の置かれていた1949年を描いた『グッド・モーニングフィズ』ではマッカーサーが出てきたり、1977年を描いた『星と虎の夕べ』では実際に毎年ディナショーを行なっていた越路吹雪さんが登場したり…と行った具合だ。
そんなこともあり、この物語がどこまで空想でどこまでリアルなのかわからなくなってくるのだ。
それぞれ舞台が東京會舘という点は共通しているものの一人ひとりの物語があまりにも濃くて、面白く夢中になって上下巻あっという間に読んでしまった。
そして案の定「東京會舘」に行きたくなる。
今年の春に二度目のリニューアルオープンされた東京會舘は、物語を読んだわたしが思い描いている會舘の姿とはきっと違うけれど、でも、初代と2代目の會舘の良さは絶対に崩さず、さらに居心地が良くなっているのだろう。
だってあの東京會舘だもの。
そう思わせてしまうくらい、文章だけでわかるこの場所が人々にどれだけ愛されてきた場所なのかが。
物語のなかで何度も出てきたレストランの格式高い「プルニエ」も少しだけカジュアルな「ロッシニ」も憧れる。そこで食べてみたいものもいっぱいある。でも、何よりいちばん憧れるのは土産菓子として作られた「ガトー」だ。
このお菓子にまつわる話は上巻(旧館)『しあわせな味の記憶』で語られる。
レストランの菓子はレストランのもの。東京會舘という場所で食べることに意味があると考え、土産用のお菓子なんて、と思っていた初代製菓部長の勝目が最初に作ったのが、この「ガトー」だ。
何種類かのクッキーが入っているが、勝目が最初に完成させたのは、プラリネクリームをサンドした半生タイプのクッキーだ。
このソフトクッキーのしっとりと優しい味わいを引き立てるクリームは、一度アーモンドを細かく、細かく砕くという凝ったものだ。土産用の菓子であっても、おいしく食べてもらうための労力を惜しまないという、むしろ量産とは真逆の方向に舵を切った結果だった。(旧館『しあわせな味の記憶』より)
ひゃー、食べたい。もちろん、実在する。調べたらちゃんと売られていた。食べたい。買いに行きたい。
もしかしたら実際にいたのかもしれないと思うと、物語の出てくる登場人物たちへの愛着も湧くけど、やっぱり東京會舘への憧れが増す。
ちょっとおしゃれなワンピースを着て、今度の休みには行ってみようか。なんて。
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