少し背伸びして憂いてみるのも悪くない
年をとることが必ずしも悪いことだとは思っていないけれど、制服を着て軽やかに走りすぎていく高校生や、どつきあいながらも笑っている小学生を見るとほんの少しだけ切ない気持ちになる。
それでも、わたしは大人になってからのほうが楽しいと思えることが増えた。
最たる理由としては自由であるとか、孤独でいられるとかいろいろとあるけど、そのなかのひとつに江國香織さんの小説が馴染んできたということがある。
たぶん初めてわたしが江國香織に出会ったのは『神様のボート』を読んだ中学生のときだったと思う。
骨ごとまるごと溶けちゃう様な恋なんて当たり前のように知らなかったし、シシリアンキスなんてカクテルが の名前も、そもそもカクテルの存在すらあやふやなあの頃、江國香織の描く恋愛はまるで別世界でとんでもなく魅力的だった。
それからも恋愛小説は苦手、と言いつつ気が向くとぱらぱらと読んできた。
いつだって自由奔放な恋愛に興じる江國ワールドに、どうしようもなく浸りたくなるときがあるからだ。
夜更かししたい気分のとき、ひとりぼっちになりたいとき、少しだけ背伸びして憂いてみたいとき。
耳を澄ましてやっと聞こえるくらいのしっとりした雨の日にも、江國香織はとても合う。
成人して、お酒も覚えて、いくつかの恋愛もして、やっと少しだけ「うんうん、わかる」と思いながら読めるようになってきた。
いつかわたしもこんな恋愛をするのだろうか。夜が味方になるんだろうか。
そんな風に憧れだけを抱いていたあの頃よりも、少し近づけた今のほうがずっと登場人物に親近感が湧く。全く理解できないときですら不安に思わず、見守ることができるようになった。
とは言え、最近は物語よりもエッセイのほうがお気に入りかもしれない。
短いながらもしみじみと浸らせてくれるし、言葉遣いが本当に綺麗で声に出してみるのがすきだから。
わたしもいつかこんなエッセイが書けたらと思いつつ、今日もついつい扉を開く。
もっともっと新しい世界を知るために本を買いたいなあと思ってます。