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ふしぎの入り口/『霧のむこうのふしぎな町』

小さな頃から週に一度は図書館に通っているわたしにとって、本の選びかたは実はかなり雑である。

何しろありがたいことに、図書館の本は無料で借りることができるし、大抵一度に何冊かまとめて借りることができるので、自分の趣味に合わなかったときでも躊躇うことなく次の一冊に手を伸ばすことができる。

なので、「パケ買い」ならぬ「パケ借り」をすることが多い。

表紙のデザインはもちろん、作家さんの字面、最初の一行のセンス…惹かれる部分はまちまちだが、そんなふうに気軽に自分が読む作品を決めるので「なぜこの本を読もうと思ったか」という問いには「なんとなく」としか答えられないものが多い。

そんななかで『霧のむこうのふしぎな町』を手に取った理由は実にはっきり覚えている。

それは「天沢聖司くんが読んでいたから」だ。

読書好きで空想好きだったわたしはジブリ映画『耳をすませば』を中学生のとき、それはもう信者のように愛していた。

映画を何度も観て、原作漫画を読み(おかげで原作者の柊あおいさんの漫画にもハマり一時期は全て買い揃えていた。)、サントラをMDに入れ、図書館にあった絵コンテ集を毎日読んだ結果、わたしの最初のひとり旅は耳すまの聖地「聖蹟桜ヶ丘」だった。

そんななか、作中で図書館でつくしちゃんを待っている間に聖司くんが読んでいた作品が『霧のむこうのふしぎな町』であることを知ったわたしは図書館に走ったのである。

(手元の本のタイトルを見てほしい)

この作品はのちに『千と千尋の神隠し』に影響を与えた作品としても有名になるが、わたしの出会いはこちら側だった。

そうして手に取ったわたしは、主人公のリナと共にピエロの傘に連れられて霧の谷へと連れて行かれたのである。

めちゃくちゃ通りにすむ住人たちは、一見するとちょっぴりとっつきにくさがあるが、リナと交流していくごとに誰もが味があってひとりひとりにじっくり話を聞いてみたいと思うくらい魅力的である。

ほんのすこしの期間だけ働いては、すぐに違う家に行かなくてはならないあっさりとした区切りにリナと一緒になってついつい寂しさを感じてしまうほどである。

そして最初は泣いてばかりだったリナが、だんだんとたくましくなっていくところにこちらまで嬉しくなってしまうのだ。

「『だれがそう言ったんだい』を聞かないと、ピコットばあさんと話したって気がしなくなってしまったわ」

そして、もっともっと、と読者ものめりこんだところであっさりと元いた町に帰ることになるリナ。

でもその分、めちゃくちゃ通りに住んでいる住人のことや、リナのその後を想像する楽しみをくれたような気さえするのだ。

「ウーン、つまりね。この町がほんとうに必要な人は、この町に来ることができるのよ。きっと、町が、えり好みするのね。」

新しい町と、新しい出会いが欲しいなと思ってる人に読んで欲しい一冊。

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