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アメリカの旅で金太郎

アメリカ西海岸を一人旅していた時の話だ。

カナダのバンクーバーからアメリカのシアトルへ行き、そこからバスや鉄道を乗り継いでゆっくり南下する旅を続けていた。

その日は、ロサンゼルスからカリフォルニア州でもメキシコ国境にほど近いサンディエゴまで電車で向かっていた。

どこの駅かは忘れてしまったが、僕の隣の席に若い女の子が乗ってきた。やがて、僕が本を読んでいると隣から声を掛けてきた。

彼女はアマンダという女の子でカリフォルニア出身の現役大学生だった。大学では日本語を専攻しているのだという。僕の読んでいる本が日本語で書かれていたから思わず声を掛けたくなったのだろう。おまけに、日本語より中国語の方が得意で話せるというから驚きだ。その時点で、アジアの国が好きで強い関心を持ってくれているのだと感じた。

僕もヨーロッパからアメリカに渡って一人旅をしている所なんだと話すと、彼女は「アメイジング!」といって目を見開いて驚いてくれた。

ちょうど授業で金太郎の昔話をやっていると聞き、僕は彼女に聞いた。

「金太郎の話は理解できたかい?」

「うーん、まぁまぁかな。けど漢字が難しくて」

なるほど、漢字は日本人でも難しく感じるくらいだ。

すると、彼女はバッグから授業で使っているプリントを取りだして読み始めた。発音もよく、抑揚が感じられる綺麗な日本語だった。僕も隣で金太郎の物語を聞きながら懐かしく感じると同時に、宿題になっている箇所を手伝ってあげた。

彼女はゆっくりでありながらも、ほぼ完璧に最後まで読み切った。しかも日本語で一度読み切った後、今度はその一文一文を英語で読み直して僕に意味を再確認してきた。

こうなってくると状況は一変する。今度は僕が英語を教えてもらう番だ。正直、英語は自信がなかったが、昔話にでてくる単語は何となく理解することができた。

思いがけない場所で彼女も宿題がはかどったに違いない。僕にとってもいい勉強になったし、何より旅の最中に誰かの役に立てたことが嬉しかった。

やがて、彼女は僕よりも先に電車を降りた。

「アリガトウ!」

別れ際、彼女は日本語で言ってくれた。そして、宿題を手伝ってくれたお礼にチャイニーズドレスのミニチュアと中国のお箸をバッグからなぜか取り出して僕にくれた。

僕は日本人だが、彼女が日本や中国それぞれに関心を持ってくれていることに嬉しく感じ、ありがたくそれを受け取った。

***

トップ画像は、サンディエゴ・カブリヨ国定公園にて撮影。(2006年12月)カブリヨ記念碑からメキシコを望む

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