「竹藪やけた」の反対は?
もう30年以上昔の話。僕が大阪に住んでいた頃の話だ。
当時僕は4歳か5歳くらいだろう。
今は家族や親戚と話す時以外は当たり前のように標準語で話をするが、この頃はいつでも大阪弁だった。
*
その日、僕は母に連れられて友人の家に遊びに行っていた。
その母の友人には息子が一人いて、僕と同い年くらいだった。
後々僕の母から聞いた話だが、4歳頃からその子はすでに新聞を読み始めていたという。親は教師、かなり育ちの良い子だったと聞く。
正直、僕は一緒にその子と何をして遊んだのはよく覚えてない。
ただ、今でも覚えているのは4人で車に乗ってどこかに移動している時のことだ。僕とその男の子は後部座席に座り、助手席に僕の母、運転席はその子の母親。
やがて、車は道の両側が竹藪に覆われた抜け道のような場所を走り始めた。
その時だ。
「ニコタロー君、反対読みクイズしよう!」
その子の母親が竹藪を見て思い出したのか、こんなクイズを出してきた。
「たけやぶやけた! 逆さまから読んだら何ていうでしょう?」
「たけやぶやけた?」
僕の隣に座るその子は、もう答えが分かったといった自信満々の表情をしている。何も難しくはない。反対から読めばすぐ答えが分かるのだ。
しかし、この時の僕はいったい何を勘違いしてしまったのだろう。そもそも問われている意味をちゃんと理解できていなかったらしい。
反対読み? 逆さま? たけやぶやけたの反対?
そして僕は答えた。
「たけやぶやけてへんっ!!」
その突拍子もない答えに全員が笑ったのは言うまでもない。
「あちゃ~!!」
隣に座っていたその子は、僕にわかりやすく”答え”を教えてくれた。
一つ弁解させてもらうとすれば、僕は3歳頃まで語彙が増えず言葉をろくに話せなかったらしい。自然の流れとして読解力も乏しかったはずである。(語彙や読解力は36歳の今でもあまりないが…)
それから東京へ引越した後も、時々母からこの時のエピソードを聞くことがあった。僕も覚えているだけにその時の情景はすぐ浮かんでくる。
僕が大阪に住んでいた頃の数少ない思い出の一つである。
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